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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ローゼン・サーガ

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 階段を上った先にある暗い闇を抜けて城の中に入ると大きなホールに出た。ホールには二階に上る階段があるが、その階段はどのような意図でデザインされたのか不必要に蛇のように曲がりくねっている。
 階段を上るとそこには彫刻の施された門があり、その横には蝋燭で明かりが灯され、門の上を見ると恐ろしい顔をした悪魔の彫像が顔を出していた。
 門の先は長い廊下で、地面には赤いじゅうたん。そして、この廊下にはどこからか風が舞い込み薔薇の匂いを運んできていた。薔薇の匂い――それは廊下を抜けた先にある中庭から運ばれてきたものだった。
 中庭の中心には水の流れていない噴水があり、この中庭からは多くの通路に行けるようになっていた。〈黒無相の君〉が案内したのは正面に聳え立っていた巨大な塔だ。
 塔の中はステンドグラスから差し込む光によって照らされ、頭上を見上げると螺旋階段が天井まで伸びている。
 長い螺旋階段を上りきり塔の外に出ると、長い渡り廊下が別の塔まで続いていた。その先にあるのがこの城の主の部屋だ。
 〈姫〉の待つ部屋の前で〈黒無相の君〉が足を一旦止めた。
「この先に〈姫〉が待っておられる」
 再び歩き出し部屋の中に入って行った〈黒無相の君〉の後にキロスが意気揚揚と部屋中に入って行く。
 主の部屋は眩しいまでの輝きを放っており、その中で〈姫〉は玉座に座り皆が来るのを待っていた
「私はあなた方を待ちわびていました。ですが、招かれざる方が居られるようですね。人の形をした内に〈王〉を感じます」
 〈王〉とはかつて〈姫〉に戦争を仕掛けたと云う精霊のことである。
 恭しくお辞儀をして見せたキロスは笑って見せた。
「さすがは奪い取った精霊の頂点に立つだけのことはあるみたいだね。でも、僕は〈王〉ではないよ、〈王〉の意志の断片を受け継がされたに過ぎない。それも僕の意志に反して強制的だよ。信じられる、僕の運命は〈王〉とかいう奴のせいで台無しだよ。だから、ここに文句を言いに来た」
 早口で捲くし立てたキロスを横目でシビウは見て、小さな声で呟いた。
「……こいつの意図が見えない」
 場違いな雰囲気を醸し出すキロスはさらに言葉を続けた。
「僕の中にいる〈王〉は、精霊戦争が起こった本当の理由を教えてくれた。そして、君たちが世界を〈混沌〉に?還よう?としていることも」
 〈精霊の君〉は妖艶の笑みを浮かべた。
「それは違います。私は新たな世界を創ろうとしているだけです」
 話が複雑に絡み合いローゼンは困惑した。ソーサイアは人々を〈混沌〉に変え、それを吸収して魔導を極めようとしている。そして、〈精霊の君〉も世界を〈混沌〉に変えようとしているとは、誰が本当に世界を崩壊させようとしているのかわからない。
「わたくしは世界崩壊を喰い止めるためにここに来たのです。それなのにあなた様が世界を〈混沌〉に変えようとしているなんて、もう、わたくしには何もかもわかりません。わたくしは何故あなた様方に精霊に変えられたのですか? 何故わたくしは再びキース様と出逢わなければならなかったのですか?」
 〈精霊に君〉は全てを語りはじめた。
 世界も宇宙も何もない遥か古、遠い未来に〈精霊の君〉と呼ばれることになるサーガは〈無〉の中にたたひとり存在していた。
 ひとりでいることに寂しさを感じたサーガはケーオスと呼ばれる存在を生んだ。このケーオスこそが〈混沌〉であった。ケーオスの内には〈無限〉と〈創造〉を詰まって、その内からコスモスが生まれた。
 コスモスの内には〈宇宙〉と〈世界〉が詰まっており、それが今ある宇宙と世界の基礎となった。
 ケーオスとコスモスは互いの力を合わせ、多くのものを創造していった。その中には自分たちに似せて創った神や精霊、そして人間もあった。そのことによりケーオスの身体は全てのモノを創るために材料となり、ケーオスの力が全てのモノに宿ることになった。そのケーオスの力こそが、〈混沌〉の要素のことであり、魔導の源であった。
 魔導士は〈混沌〉の要素を多く受け継いで生まれて来ることによって、〈混沌〉から力を借りることができ魔導を使うことができる。しかし、魔導は魔導でも四季魔導は〈混沌〉から直接力を借りているのではなく、〈世界〉から力を借りて魔導を使うので、若干力の種類が異なっている。
 人間よりも〈混沌〉の要素を多く持っている神々は、やがて世界を支配するようになった。だが、サーガはそれをよく思わなかったのだ。そして、この頃からサーガはあることを思うようになっていた――世界を一度〈混沌〉まで還そうと。
 サーガの考えを知った精霊の〈王〉は世界を〈混沌〉に還られることを恐れて反逆を起こしたのだった。だが、多くの精霊たちは〈精霊の君〉と名乗る者に騙されて仲間に付き、その結果〈王〉は敗北した。これが精霊戦争である。
 時が流れ、世界を〈混沌〉に?還す?ことを決意したサーガはケーオスとコスモスにそこのことを話し、それを聞いたコスモスは快く〈混沌〉の内へ?還って?いった。これで〈世界〉と〈宇宙〉は〈混沌〉に還るはずだった。
 世界は〈混沌〉に還らなかった。この時、世界や宇宙はすでにコスモスから独立した存在と進化していたのだった。そこでケーオスは自ら世界を呑み込もうとしたのだが、その前にまだやるべきことがあったのだ。
 永い時を存在してきたサーガは己が存在することに飽きてしまい、新たな世界で自分に代わる存在が必要だと考えた。そこでようやく候補として見つけ出したのがキルスとその身体に宿っていたローゼンだったのだ。
 〈混沌〉に近い存在であるキルスと〈世界〉と〈宇宙〉の力を強く受け継いでいたローゼン。キルスとローゼンが二人で一人であり、一人で二人として、互いが強い絆で繋がっている存在であったことがサーガの代わりとして選ばれた理由であった。
 だが、全てを〈混沌〉に還そうとしていた矢先に神々の争いに巻き込まれたキルスが死んでしまったのだ。そこでサーガとケーオスは、その時すでに身体を構成していたものが精霊に近かったローゼンを精霊に変え、不死を与えることによってキルスが再び世界に現れるのを待った。輪廻転生が〈世界〉から独立した世界の法則であることをサーガとケーオスは知っていたのだ。
 そして、サーガはキルスが再び世界に現れるのを待ち、眠りにつくことにした。その時に〈夢〉を創ったのは、ローゼンが世界から消滅してしまった時のための予備策だ。再びローゼンやキルスのような存在が現れるのを待つのは得策とは言えなかった。
 世界や宇宙など、もともとはサーガであったものは全てサーガから独立した存在になっていて、サーガにも自由に操ることができなかったのだ。サーガはひたすら待つことしかできなかった。
 そして、ようやくキルスがキースとして生まれ変わり、キースとローゼンはサーガの定めた運命を歩み出逢った。後は二人を一人に戻して、全てを〈混沌〉に還し、一人となったキースとローゼンを唯一絶対の存在として真世界を創らせるはずだった。だが、思わぬところで邪魔が入ったのだ。