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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ローゼン・サーガ

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 レザービトゥルドを倒すべく、キルスは妖しげな薬を服用し一時的に生命力を回復させて怪物に立ち向かっていった。それ共に巫女によって選出された六人に魔導士には、ムーミストがこの日のために用意していた魔導具が渡され、レザービトゥルドとの戦いに向かって行った。
 魔導士たちとキルスの活躍によってレザービトゥルドは見事退治でき、レザービトゥルドの屍骸はメミスの横を流れる川に流され、悪夢は去ったのだと誰もが思った。
 戦いを終えた魔導士たちとキルスは神殿に呼び集められ、巫女や神官たちにその功績を称えられた。
 その最中、あのザッハークが姿を現したのだ、しかし、その者はザッハークではなかった。
 虚ろな目をしていたザッハークの頭が突如破裂し、その頭があった場所に蛇のような頭が現れた。レザービトゥルドがザッハークの体内に乗り移っていたのだ。
 魔導士たちはレザービトゥルドを取り囲み一斉に魔導を放った。
 魔導士たちの身体から光り輝く帯状の魔導が発射され、レザービトゥルドの身体に見事命中した。だが、レザービトゥルドはそんなものなどものともせずに長く伸びた頭で近くにいた魔導士に喰らいつき丸呑みにしてしまった。
 ここにいる魔導士たちは一度目のレザービトゥルドとの戦いで傷つき、とても二度の戦いには耐えられそうもなかった。
 レザービトゥルドは手から稲妻を魔導で出し、巫女に向けて撃ち放った。巫女と神官長を殺害すること、それがこのメミスを滅亡させる方法であった。
 黒い稲妻が巫女に当たる瞬間、それを庇うようにキルスが身を犠牲にして稲妻を身体に受けた。巫女と神官長、どちらかが生き残ればいい、そして神官長の本来の役目は双子の巫女を守ることであった。
 強い魔導力を持つキルスには魔導に対する耐性がある。それでも今の稲妻はキルスの身体に重症を負わせた。
 実体を持たぬ、今やキルスの守護霊をなったローゼンはレザービトゥルドに襲い掛かった。
 ローゼンの身体から光の玉が幾つも放出され、それは生きているように動き回り、レザービトゥルドに向かっていく。レザービトゥルドに当たった光の玉は爆発を引き起こし辺りに硝煙が立ち込めた。
 よろめいたレザービトゥルドの身体にローゼンが抱きつき、動きを完全に封じようとした。だが、レザービトゥルドの激しい抵抗に遭いローゼンは振り払われそうになった。
 長く伸びた首を大きく振り回し、レザービトゥルドの頭は神殿の壁や柱を次々と壊していった。
 言うことを聞かぬ身体に鞭を打って、キルスもまたレザービトゥルドの身体に飛びかかった。
 キルスとローゼンの身体から激しい魔導力が発せられレザービトゥルドの身体を完全に封じた。
 これがレザービトゥルドを倒す最後のチャンスであった。
 ひとりの魔導士が地面に転がっていた伝説の魔導具?ムーミスト?の弓を拾い上げ、レザービトゥルドに向けて構えた。魔導士の生命力を使って矢を具現化し、レザービトゥルドに撃ち放った。
 放たれた魔導の矢は周りの空気を巻き込み渦巻き、見事レザービトゥルドの身体を貫いた。
 咆哮をあげたレザービトゥルドの身体にひびが入り、そこからまばゆい光が漏れ、魔導力を失しなったレザービトゥルドは石のようになると、やがて粉々に砕け塵と化し消滅してしまった。
 滅びたレザービトゥルドの巻き添えをくったキルスの身体も崩壊した。
 キルスが死ぬということ、それはローゼンの死も意味している。
 ローゼンの身体が消える。意識が消える。存在が消えてしまう。
 辺りが暗闇に閉ざされ、ローゼンは自分が消滅する運命を受け入れようとした。だが、朦朧とする意識の中、彼女は声を聴いた。
《おまえは選ばれた。全ての記憶を封じ精霊として永遠を生き――〈運命〉を待て》
 そして、深い闇の中にローゼンは落ちた。

 シビウの眼前で驚くべきことが起きた。
 〈混沌〉が、魔導壁によって封じられていた〈混沌〉が激しく脈打ち、魔導壁を破壊したのだ。
 魔導壁は硝子のように弾け飛び、中から〈混沌〉が現れた。
 全てを呑み込む闇色の〈混沌〉。それはまだ?還らぬ?ローゼンの身体を呑み込んでしまった。
 シビウは〈混沌〉に呑まれる前に急いでその場を離れたが、魔導士でない彼女には〈混沌〉を封じる術はない。
「ローゼンが!? どうなってんだい、何で〈混沌〉が!」
 〈黒無相の君〉はシビウを自分の後ろに押し退け守るようにすると、仮面の奥からくぐもった声が発せられた。
「見ていろ、すぐに――」
 〈混沌〉が固まっていく、形をつくっていく、二人の男女をつくっていく。
 抱き合う二人の男女。それは紛れない、キースとローゼンであった。〈混沌〉はキースとローゼンを生み出したのだ。
 還って来たキースは哀しい顔をしてローゼンを見つめた。
「過去の私がしたことは正しいことだったのかわからない。私の行いは、全ては君を苦しめていたように思える」
「わたくしにも何が正しいことなのかはわかりません。ただ、わたくしはあたなを愛しておりました」
「私もローゼンのことを愛している」
 〈混沌〉の内であった出来事を知らないシビウは、唖然としてしまって言葉も出せなかった。
 〈黒無相の君〉は幻のように揺らめきながら風に乗って移動し、ローゼンとキースの前に立った。二人は我に返って、多くの人たちに見られていることに気がつき、慌てて身体を離した。
 真っ赤な顔をしたローゼンはうつむきながら〈黒無相の君〉に声をかけた。
「あ、あなたはどなたでしょうか?」
「我が名は〈黒無相の君〉。世界の〈道標〉であり、おまえたちを導きに来たのだ」
 この声を聞いた時、ローゼンはあることを悟って顔を上げた。仮面の奥から発せられた声は、あの時に聞いた声――。
「あなた様がわたくしを精霊として生まれ変わらせたのですね!?」
「そうだ。全てを知りたくば、〈姫〉の御前に来るがよい」
 そう言い残して〈黒無相の君〉は消えた。
 〈姫〉の御前に来いと言われても、それがどこなのかわからない。ヴァギュイールも〈黒無相の君〉も、そして〈姫〉自信も同じことを言う。
 〈精霊の君〉は全てを知っている。
 キースは不快な表情をあらわにした。彼は〈姫〉について何も聞かされていなかったのだ。
「〈姫〉とは誰のことだ? ローゼンは知っているのか、その〈姫〉を?」
「〈姫〉は〈精霊の君〉と呼ばれる精霊の頂点に立つ者。今は何処にいらっしゃるのかわからないのです。ある日突然に眠りにつかれ、今現れた〈黒無相の君〉と共に姿を消してしまわれたのです」
 髪の毛をかき上げながらシビウが二人のもとへ近づいて来た。
「あのさあ、話をもっとわかりやすく。あんたたちが知ってること全部を話して、整理してくれないかねえ?」
 ローゼンは自分の知っていることを一通り話した。〈精霊の君〉が創った〈夢〉のことや、その〈夢〉の世界で〈精霊の君〉に出会い、〈夢〉消滅してしまったこと。そして、シビウには、フユが混沌に呑まれてしまったことを話し、キースにはヴァギュイールが消滅したことを話した。
 キースは自分の前世の話と、ローゼンと前世の自分が愛し合っていた話、〈混沌〉になってしまった後の話を全てした。