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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ローゼン・サーガ

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 言われてみればそうだった。キースはこの時はじめてその疑問にぶち当たった。何故、精霊は魔導を使えるのか?
 精霊は人間とは身体をつくっている構造が違う。精霊は人間のような血を持ってない。では、何故魔導を使えるのか?
 ソーサイアはキースが答えられないと見て、満足そうな笑みを浮かべた。
「やはり、答えられないようだな。人間は魔導を知らずして魔導を使っている証拠だ。魔導の真の恐ろしさを知らない。魔導が諸刃の剣であることを知らない。キースよ、おまえは魔導を何の力を借りて使っている?」
「神々の力……ではないのか?」
 自信を持って言うことができなかった。今までは神々の力を借りて使っているものだと思い込んでいた。だが、今は違うものの力を借りているのではないかと思えた。
「愚かな神々は遠い地で戦争をしていてな、神々の数は激減している」
「では、やはり神々が減ったことによって魔導士の数が減ったのか?」
 不敵な笑みを浮かべているソーサイアは首を横に振った。それを見たメルイルが大声で怒鳴った。
「あんたねえ、回りくどい言い方ばっかりしてないで結論を言ったらどうなのよ!」
「少し〈混沌〉に近くなり過ぎたのか、私の思考も?混沌?としてしまっているようで、回りくどい言い方が好きになってしまったようだ」
 これは彼の冗談だった。だが、今の言葉を聞き、その意味に気が付いたキースたちは、まさかと思った。
 人の驚いた顔を見るのがさぞかし好きなのだろう。ソーサイアは薄気味悪い笑みを浮かべた。
「魔導とは〈混沌〉の力を借りて使っているのだよ」
 予想していた答えではあったが、やはり衝撃は大きかった。
 まさか、今まで使っていた魔導が〈混沌〉の力を借りていたとは、まだ信じられない。いや、信じたくない。
 ソーサイアは自分の瞳を指差した。
「サファイアであった私の瞳は紅い色をしていた。それは精霊であれば誰しもがそうだ。だが、今の私の色がわかるか? キース、おまえと同じ色をしている。これは〈混沌〉に近い者である証拠だ」
 キースの瞳の色は黒かった。吸い込まれそうな闇色。
 代々メミスの都の神官長と巫女の双子は黒い瞳で生まれて来ると決まっていた。この世界で黒い瞳を持って生まれるのはこの双子しかいないと言われるほどの珍しい瞳の色
 動けなくなっているキースの周りを散歩でもするように歩きながら、ソーサイアは話を続けた。
「この世の全てのモノは少なからずとも〈混沌〉の要素を持っている。人間はその要素を多く持って生まれて来るかどうかで、魔導を使えるようになり易い性質かどうかが決まるのだ。つまり、本来は誰しもが〈混沌〉の要素を持っている訳なのだから、内に秘める〈混沌〉を増幅させれば誰しもが魔導を使うことができるようになる。人間の中に魔導士が存在するのはまさにそれと言えるだろう。人間はいろいろなものに使役されて魔導を使える性質を持って生まれて来るのだが、その中でも最も使役されるものは神々だ。そのため神々のいなくなってしまったこの地上では魔導士の数が激減したのだ」
「私に何故そのような話をする?」
 これがキースの出せる精一杯の言葉だった。
 蒼白いソーサイアの手がキースの顔にやさしく触れた。
「おまえは特別だからだ。おまえとローゼンは、どうもあいつらのお気に入りらしいからな」
「あいつらとは誰のことだ?」
「それは私に身体に取り込まれればわかることだ」
 ソーサイアの手がキースの顔から離れた途端、キースの身体に異変が起きた。
 誰もが目を覆いたくなるようなおぞましい光景だった。キースの身体が突然ぶよぶよと膨れ上がり、見るも無残な姿へと変貌し始めた。
 誰もがすぐに悟った。キースが〈混沌〉に変わる。
 肉塊となったキースの身体は収縮し黒い塊になった。それを見ていたローゼンは気を失いそうになってしまった。まさかキースまでもが〈混沌〉になってしまうとは、恐ろしい悪夢を見ているようだ。
 〈混沌〉に変わってしまったキースを吸収すべくソーサイアが腕を伸ばした瞬間、彼の腕は肘から地面に落ちた。
 鋭い目つきでソーサイアが見たそこには、二対の魔剣を構える年老いた〈紅獅子の君〉が立っていた。年老いた姿とはいえ、その勇ましさは他を圧倒する勢いだった。
 落ちた腕を拾い上げたソーサイアは腕を元の位置に無理やり戻すと、くっ付けた腕の調子を確かめるように屈伸させ、にやりと笑った。
「久しぶりの対面だと言うのに、私の腕を切り落とすとは、昔と変わらず勇ましいことだ」
《久しいなソーサイアよ》
 ヴァギュイールの?声?を聞き、ソーサイアはあざけ笑った。
「年老いて?声?も出せなくなってしまったのか、可哀想なことだ」
《年老いようとも、剣の腕は落ちておらぬつもりだ!》
 二対の剣が風を斬り裂き、うねりをあげてソーサイアに襲い掛かった。
 魔導壁でヴァギュイールの魔剣を防ごうとしたのだが、この二対に魔剣は全てを切り裂く魔剣。ソーサイアの身体は十字に斬られ地面に崩れ落ちた。
 油断するのはまだ早い、地面に落ちたソーサイアの身体は霧と化して消えた。
 ヴァギュイールは自分の後ろと真上を二対の剣で同時に突き刺した。そこには二人のソーサイアがいたが、どちらも虚偽であった。
「どちらも外れだ。ヴァギュイールよ、おまえは年老いたのだ」
 遥かヴァギュイールの頭上から、巨大な光り輝く玉が彗星のように降って来た。その先には勝ち誇った表情をしたソーサイアがいた。
 地面を砕くほどに強く蹴り上げ飛翔したヴァギュイールは巨大な魔導の塊を真っ二つに切り裂き、そのままソーサイアに向かって行った。
 断ち切られた魔導の中から現れたヴァギュイールを見てもなお、ソーサイアは余裕の表情であった。
「年老いたおまえでは私には勝てぬ」
《それはおまえとて同じこと》
「否だ!」
 ソーサイアの身体から放たれた強い波動によって、ヴァギュイールが刹那だがたじろいでしまったその時、その瞬間を見逃さなかったソーサイアはヴァギュイールの懐に潜り込み、そのままヴァギュイールの身体を地面に叩きつけるべく急降下をはじめた。
 五〇メティート(約六〇メートル)の高さからヴァギュイールの身体は地面に激しく叩きつけられた。地面が砕け四方に弾け飛ぶ。
 苦痛に表情を歪めながらも、ヴァギュイールの手はしっかりと柄を握り締め、その切っ先はソーサイアの身体を貫いていた。ヴァギュイールは自分が地面に叩きつけられる反動を利用して相手に剣を突き刺したのだ。
 剣で身体を突き刺されたソーサイアはそれでもなお、余裕の表情を浮かべている。ここまで来ると異常としか思えない、その表情だった。
「ヴァギュイールよ、おまえは長い年月の間に衰えてしまった。だが、私は違う」
《何を言う、おまえとて自然の摂理には反せぬはず!》
 魔剣がソーサイアの身体を切り裂いた。今度は本物であった。だが、ソーサイアが消滅することはなかった。
 魔剣によって斬られた、ソーサイアの身体の切り口は黒かった。それは吸い込まれそうな闇色をしており、まるでそれは〈混沌〉のようだった。