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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ローゼン・サーガ

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 はっとした表情をして突然ゼクスが走り出した。
「そうだった、すでに仲間が密会の場所に侵入しててよ、俺たちも早く行かねえとまずいんだった」
 駆け出して行ったゼクスの後を残りの三人は急いで追った。
 昼よりも活気に溢れた一階の酒場を抜けて店を出ると、そのまま村の外へも出た。
 村の中は魔導力によって光り輝く街灯がいくつもあり明るいが、村の外はそうもいかない。そこでキースとゼクスは初歩の魔導を使い、拳大の光の玉を二人で合わせて四つ作り出した。
 光の玉はひとりに一つずつ、身体の周りを纏わり付くように飛び周り、辺りを明るく照らしてくれる。この魔導ならば両手が空くので何かと便利だ
 しばらくの間走り続けのだが、体力のないキースには死ぬ思いであった。
 キースがふと横を見るとフユが地面に足を浮かせながら移動している。これならば体力を使うことはないだろう。現にフユは息切れひとつしていない。
 魔導には空を飛ぶというものもあるらしいが、その使用方法を人間で知るものはほとんどいない。キースもまた空を飛ぶ魔導に関しては全く使い方を知らなかった。
 膝に両手をつきキースは肩で息をしていた。その彼の目の前には真っ暗な口を空けた洞窟がある。ここが〈混沌〉崇拝教団の密会場所だ。
 体力の限界で荒い息をして立ち止まっているキースの肩をゼクスは力強く叩いた。
「こんなとこでへばってんなよ、さっさと行くぜ!」
 苦しい顔をしながらもキースは歩き出した。だが、ローゼンは少しキースのことが心配だった。
「キース様、少し休みますか?」
「いや、ゼクスが先に行ってしまったのだからそうはいかないだろう」
 その理由もあるが、キースはローゼンの声を聞き、彼女が全く疲れていないことを知った。つまり、この場で疲れているのは自分だけだったのだ。自分が皆の足を引っ張るわけにはいかなかった。
 洞窟の中は外よりも少し気温が高く、明らかに人工的なものだった。地面は踏み固められ壁も岩を削り平らにされ、洞窟内は四角い筒のような構造になっていた。
 前方に大きな扉が見えてきた。その扉をキースが止める間もなくゼクスは勢いよく開けてしまったのだ。
 しまったという顔をするキース。門番がいないのがまず不自然であるし、こんな少人数で正面突破なんてことはキースの戦略にはないことだ。
 急いでキースはゼクスを追い、ローゼンとフユも急いで扉を抜けた。
 そこは狭い四角い部屋だった。何もない、天井と壁、入って来た扉だけだ。
 この部屋を不審に思いキースは隠し扉やスイッチがないかと探すがない。
 何もないとわかってか、ゼクスは何も言わずに部屋の外に出て行ってしまった。それに続いてキースも出て行こうとしたのだが、扉はキースの鼻先で閉まった。
 扉を開けようとキースは引くが開かない。押しても開かなかった。
 異変に気づいたローゼンとフユが扉に近づこうとした、その時だった。地面が大きな口を空けてキーたちを呑み込んだのは――。
 地面に落とし穴が開いた瞬間、フユは空を飛んでいたので落ちずに済んだが、キースとローゼンの身が心配で自ら穴の中に飛び込んでいった。
 フユはまずローゼンの腕を掴んだ。次にキースも掴もうとしたのだが、間に合わなかった。
 五メティート(約六メートル)の高さから落ち、運動神経があまりいいとは言えないキースは着地に失敗して足を痛めてしまった。そのままキースはうずくまり上を見上げるがすでに出口は閉じられている。
 ローゼンはフユに地面に降ろしてもらうとすぐにキースに駈け寄った。
「足を痛めたのですか?」
「ああ、情けないがそのようだ」
「治療して差し上げます。足を出してください」
 キースはローゼンに言われるままに怪我をした足を前に投げ出しながら座った。
 白くしなやかなローゼンの両手が怪我をしたキースの足に当てられた。その途端、足の痛みは消えてしまった。
 びっくりした表情をしているキースにローゼンはやさしく微笑みかけた。
「争いは苦手なのですが、治癒魔導は得意なのです」
 治癒魔導とは、その名の通り怪我や病気を治す治癒の魔導だ。
 治癒魔導はとても高度な魔導で、攻撃系の魔導を得意とするキースはあまり得意ではなかった。しかし、一瞬にしてキースの怪我を治したローゼンの治癒魔導はすばらしいものだ。
「ありがとう、まさかローゼンが治癒魔導を使えるとは思ってもみなかった」
「わたくし、そんなに何もできないように見えますか?」
 ローゼンは少泣きそうな顔をしていた。キースはローゼンが何もできないと思っていたのだが、泣きそうな顔をしている彼女を見て言葉を取り繕った。
「治癒魔導のような高度な魔導を使えることに感心しただけだ」
「ありがとうございます。よかった……」
 ローゼンは胸に両手を当て安心した顔をして息を吐いた。だが、安心したのもつかの間だった。
 閉じられた天井からフユが降りて来た。
「開かなかった」
 ローゼンがキースの怪我を治している間にフユは天井を調べていたのだ。
 どうしようもない状況に置かれてしまった。打つ手がないかとキースは髪の毛をかき上げ考え込む。
 出口は天井の扉しかない。しかし、フユが調べた限りでは開かなかったらしい。では、どうしたらいいのか?
 キースは立ち上がり両手を天井に向けて構えた。
「魔導で天井の扉を壊す。出口が開いたらフユが外に出てロープか何かを持って来てくれ」
 手に魔導力を集中させ撃ち放とうとした時、天井が開かれ何かが落ちて来た。それは男女の二人組みだった。
 キースはすぐさま魔導を撃つのを止めて女性を受け止めた。
「大丈夫か……おまえは!?」
「あなたは!?」
 二人は互いの顔を見合わせてしまった。キースが抱きかかえているのは女魔導士メルイルだった。だとすると、もうひとりの男はサファイアであった。
 無事に着地を決めたサファイアは渋い顔をして呟いた。
「参ったな、不覚だった」
 すぐさまローゼンはサファイアの元へ近づいた。
「サファイア様が何故このようなところへ?」
「ゼクスという男に連れられてここに来たのだが、どうやら罠だったらしいな」
 これではっきりしたことがある。ゼクスはキースたちを罠にはめるためにここに連れて来たということが――。しかし、何故?
「わたくしたちもゼクスという男に連れられてここに来たのです。サファイア様がゼクスと話をしているのを宿屋の窓から拝見しました。あの時に騙されたのですか?」
「宿の窓から? たぶんその時だろう。俺が村をひとりで探索していた時に、あの男に声をかけられてな、こうしてメルリルと共にここに〈混沌〉崇拝教団を捕まえに来たのだ。だが、迂闊にも罠にはまろうとは思いもしなかった展開だな」
 激しく地面が揺れながら動いた。動いたというのは地面が競り上がって来たのだ。
 何が起きたのかわからないまま天井が徐々に近づいて来る。そして、天井の扉は開かれ地上に出ることができたと思ったのもつかの間であった。
 周りは牢屋に囲まれていた。最初に落ちた部屋の壁が鉄格子に摩り替えられたような状況であった。いや、そうなのだ。