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遼州戦記 保安隊日乗 7

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 シャムはもはや砲台まで敵の妨害は無い。一気にシャムは砲台との距離を詰めた。強烈なGがシャムを襲うが今のシャムの障害ではなかった。
「お前が……全ての災厄の元凶なんだ!終わりにするんだ!こんなこと!」 
 シャムは叫びを上げると背中に吊り下げられた長砲身のレールガンの標準を砲台の砲身に定めた。
「これで終わり!」 
 叫びとともにシャムの長砲身レールガンが火を噴いた。砲身を貫かれた砲台は青い光を次第に弱めていった。
『見事だねえ……こっちは残りの機動兵器は無力化した』
「うん、残ったのも撃ってこないね」 
 シャムは笑顔で吉田の言葉にうなづく。
『それじゃあもう一人の俺に会いにいくか』 
 吉田の言葉でシャムはまだ事件が全て終わっていないことを理解しながらそのまま巨大な砲台の台座へと向かった。
 デブリの中、インパルスカノンと言う牙を失った不気味な四角い箱がが見える。
「不気味だね」
『でかすぎだろまず……こうして接近されることを想定していないのか……作った奴の気がしれないね』
 吉田の言葉のとおり全長1.5キロと言う長さはコロニーの破片と遜色のない大きさだった。シャムはそのまま標的にまっすぐ接近する。
『気をつけろよ……自動防衛装置はまだ生きてる』 
 シャムは静かにうなづくと砲台の端に取り付く。
「これだけ大きいと一体何をしたらいいのか……」 
『そのまままっすぐ行けば機動兵器の射出口があるはずだ。そこからなかには入れる』 
 そのまま吉田が指し示すように機体を進めると言う通りのアサルト・モジュール一機が入れるような穴があった。
『魔女の婆さんでもいるのかね』 
「誰それ、知り合い?」
『いやなんでもない』 
 吉田のたわいもない話を無視してシャムはそのまま砲台の内部へと侵入した。
 明かりもなく、ただサーマルビジョンを通して周りにいくつかの熱源が通っていることだけはわかった。
『また発砲する気だな……ただ砲身が溶けているだろうから神前の馬鹿でも受け止められるだろ』 
 周りの熱源を探知したのか吉田の言葉がシャムのヘルメットの中に響いたと同時に砲台全体が大きく震えた。
「広い所に出るね」 
『随分と余裕だな。シャムは神前をそれほど買っちゃいないと思っていたけど……』
「そんなことないよ。あの子はいい素質がある」
『さすがレンジャー教官殿。見立てがいいようで』
 吉田の茶化す言葉を聞いているうちにクローム・ナイトは広い空間へと出ていた。
『気をつけろ。動力源に近いから自動防衛システムが作動している』 
「そう簡単に行くとは思ってないよ、きっとってそこ!」 
 シャムの叫びと同時に銃弾の雨がクロームナイトに降り注ぐ。シャムは転がるようにしてそれを交わすとそのまま銃弾の雨が降ってきた元凶である自動防衛モジュールを狙撃した。
『まだいるぞ……いや、完全に囲まれた』
 吉田の言葉のとおり今度は背後からレールガンの狙撃がクローム・ナイトのバックパックに命中した。
「うわ!」 
 思わずよろけつつ誘爆の可能性のある背部の動作系のシステムを切り離してなんとか体勢を立て直した。
『俺も焼きが回ったか……ここまで内部に防衛線を引いてくるとは思わなかった』
「俊平のせいじゃないよ。それに砲台の機能はもう無いんだから……勝負はもう付いてるよ」 
 シャムはそのまま目の前の防衛システムにサーベルと突き立てるとさらに背後にサーベルを一閃して背後の誘導弾を切り裂いた。
 一瞬光がシャムの目に入った。その向こうにはレールガンを構える東和宇宙軍で制式採用されているアサルト・モジュール05式二機の姿があった。
『切り札を切りやがった……年貢の収めどきかね』 
 吉田の言葉が響くと同時に2機のアサルト・モジュールのレールガンの乱射が始まった。
 シャムは黙って下を向いた。何も考えられず下を向いた。直撃弾がコックピットを襲う。
『シャム!寝てる場合じゃねえぞ!』 
 吉田の言葉が耳をおそう。ただシャムは思い出していた。
「こんなこと……前にもあった気がする」
 そう呟くとシャムは思い出そうとしていた。
『前って……』 
 吉田がきっかけだった。シャムはかつてを思い出していた。


  殺戮機械が思い出に浸るとき 38

 人型機動兵器が焦土の上に立つか細い少年を見下ろしている。
『少年……貴様は生きたいか』 
 人型機械の声が響いた。額から血を流しながらも冷静を装うような少年は静かにうなづく。
「もう他に機械はない。この星には……この星は君の意思を受け入れた。すべては破壊された僕達は文明を捨てた」 
 少年と呼ぶにははっきりとした意志の強そうな言葉が響いた。彼の背後の岩肌の周りには機動兵器から身を隠すように多くの人々が様子を伺っているのがわかった。
『文明を捨てる……人間の生き方かそれは?』
 機動兵器はそう言う言葉を発するとそのまま右手にした剣を振り上げる。少年はそれに怖気付く様子もなくただ丸い目で機動兵器を見つめていた。
「この文明は進みすぎた。……人の遺伝子を弄り、人を模したシステムを作り、宇宙を制覇した。その結果がこの有様だ……」 
 皮肉めいた瞳で周りの焦土を眺める少年。機動兵器は剣を振り上げたまま沈黙を守っていた。
『文明を捨ててどうする』 
「国を作る……文明の無い国を」 
 機動兵器の問いに即座に少年は言葉を続けた。
『それでどうする』
「文明の無い世界でただ人が生きるべくして生きるように生きる。人は文明を持たなくても生きていける……」 
 強い調子で少年は言葉を続けた。
「こんな文明が人類を縛る世界を再び受け入れない……そんな世界を作る……」 
『できるのか?』 
 ゆっくりと剣を下ろしながら機動兵器がつぶやく。少年はようやく感情らしいもの、少しばかりの笑みを浮かべて手を差し出した。
「君もこちらに来たらどうだい?きっと楽だよ……」
 少年の手が機動兵器に向けて掲げられた時、機動兵器の胸のハッチが開いた。
「文明のない世界……」
 そこには一人の少女が座っていた。体に張り付くようなパイロットスーツを着た少女は静かにヘルメットを脱ぐ。
「そう、文明の無い誰も苦しまない世界……こんな焼け野原と無縁な世界……」 
 少女はそのまま機体の差し出した右手に飛び乗るとそのまま少年に駆け寄る。少年の背後の人々は恐れの声を殺した叫びをあげた。
「怖がることは無いよ。もう彼女も仲間なんだから……」 
 少年は恐れる民に呟いた。幼く見える少女は無表情のまま少年の手を握り締めた。
「これで君も仲間だ……さあ、国を作ろう……」 
 二人に笑みが浮かぶ。化学物質が焼けるような匂いの中、人々は二人が焼け野原の中に向けて歩いていく様をただじっと眺めていた。


  殺戮機械が思い出に浸るとき 39

『どうした』 
 かつてを思い出したシャムに吉田がつぶやく。無意識の間にも敵からの攻撃を自動的に避けていた自分に苦笑いを浮かべる。
「わかったよ……アタシも俊平と一緒なんだ」 
『何が一緒だよ……』