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遼州戦記 保安隊日乗 7

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 吉田の問いに答えることなくシャムは迷いをなくしてそのまま敵アサルト・モジュールに攻撃を仕掛けた。サーバルの一撃、レールガンの機動部品への攻撃により瞬時にアサルト・モジュールは沈黙する。
『お前……』 
「俊平も知ってたんじゃないの?アタシが古代の生体兵器だってこと」
 シャムの問いに生身を持っていたら吉田はニンマリと笑っていたことだろう。
『ようやくわかったみたいだな。いいじゃないか。それでも今、お前は生きているんだから』 
 吉田の言葉に迷いをなくしたシャムはそのまま一気に動力炉へと道をとった。
 中心部の近く。もはや敵もいない。
「こんなにあっさり行くとは思わなかったね」 
『相手もビビってるんじゃないか……古代兵器と現代兵器の奇跡のコラボだ』
 目の前に砲台のエネルギー炉が見えた。
『俺がオリジナルだ!貴様等なんかに……』 
「問答無用!」
 話かけてくる砲台の石にシャムは叫んでレールガンを全弾動力炉にうちこんだ。
『ウグッウワー、ドッドウゥワー!』 
 シャムの攻撃に動力炉はそれだけ叫ぶと息絶えたように沈黙した。周りの動力系もそれをきっかけにして点灯をやめた。
『終わったか……』 
「終わったんじゃない……始まりなんだ」
 シャムはそう言うと静かにうなづいた。
『始まり?」 
 吉田が少しばかり不機嫌に呟いた。
「始まりなんだ。すべてがね」 
『始まりねえ』 
 吉田は静かにつぶやく。シャムが現れた通路に第四小隊の面々が顔を出した。
『無事か?』 
『美味しいところぐらいとっておけよ』
 岡部とフェデロの言葉にシャムは苦々しげな笑みを浮かべた。
『それにしても外はどうなんだ?』 
 吉田の言葉に意外そうな顔をするロナルド。だがすぐに理解をしたというようにうなづくとニンマリと笑った。
『ああ、神前のあんちゃんがクソ漏らしたって話題だぜ』 
『あれだけのエネルギーを受け止めたんだ。そのくらい目をつぶってやろう』 
 フェデロと岡部の言葉にシャムも笑みを漏らす。
「何も変わらないんだね……自分を思い出しても」
『自分を思い出す?ああ、貴官の正体か』
「その口調、ロナルドさんは私の正体を知ってたみたいね」 
 シャムの問いに答えるわけでもなくロナルドが口笛を吹く。
『無事ですか?シャムさん!ロナルドさん!』 
 パーラの通信にシャムは静かにうなづく。
『現在第三勢力がそちらに急行しているようです。おそらくは……』
『こいつを受け取るはずだったネオナチの連中か……数は?』 
 ロナルドの言葉にパーラは顔を曇らせる。
『重巡洋艦クラスが6隻。駆逐艦クラスが13隻』 
『これはこれは……あちらも必死だ。虎の子の精強部隊がきたみたいだな』 
 ふざけたようにつぶやくロナルドにシャムはそのまま彼らが現れた通路に機体を進めた。
「このままこんな危ないものをあいつ等に渡しちゃいけないんだ」 
『おう!わかっているよ』 
 そのまま出撃しようとするシャムの後ろにロナルド達が続く。外に出るとすでに楓の第三小隊はネオナチの先遣部隊と戦闘に入っているところだった。
『艦載機は何機だ?』 
『確認できるだけで16機……でもまだ増える!』 
 慌てた調子で通信を続けていたパーラの表情が曇った。
『どうした!』
 冷静なアイシャの言葉に焦りが浮かぶ。 
『ネオナチの艦隊の背後に重力波が……』
 パーラが計器を見ながら呟く。
「やばいね」 
 シャムの言葉にロナルド達はアサルト・モジュールの体勢を整えた。
『そんなにやばいかねえ。信用が無いみたいだわ』
 吉田が口走った言葉にシャムは怒りの表情を向けるが、次の瞬間ネオナチの最後尾の艦が火を吹くさまがモニターに映った。
『悪党は……おっ、おっ、お覚悟しないといけないんだな……』 
 独特の吃音のパイロットの通信が入る。シャムは初めて聞く声にすこしばかり気にしながらそのまま先頭の敵機に向けて加速を続けた。
『味方増援です!摂州州軍の部隊です!』 
 パーラの声が歓喜に変わる。シャムは先頭の敵機の腕をサーベルで切り落としながらその話を聞いていた。
「俊平知ってたでしょ」 
『まあな』
 吉田の言葉が転換点になったというようにネオナチのアサルト・モジュールは撤退を開始した。それを1機、摂州艦隊から飛び出した真っ赤なアサルト・モジュールが追い続ける。
「だめだよ!深追いは!」 
『ふっ、深追いじゃ無いんだな……けっ、牽制なんだな』
 モニターの中にウィンドウが開き目の大きな口が半開きのパイロットの顔がアップされた。
「この眼……どっかで見たみたいな……」 
『どこかもなにもしょっちゅう見ているだろ?あの目を少し垂らしてみろ』 
 吉田の言葉でシャムはイメージしてみた。
「要ちゃん?要ちゃんの親戚?」 
『かっ……かっ要?西園寺の姫のことか?』 
 口元が緩んでいるパイロットの言葉にシャムはなんとも言えずに苦笑いを浮かべた。
『おい!金吾!』 
 ネオナチが去った宙域に進出してきた西園寺要のダークグレーのアサルト・モジュールが真っ赤な金吾と呼ばれたパイロットの機体の前に立ちはだかった。
『相馬金吾摂州州軍曹長。父は西園寺孝基ってわけだ』
 吉田が冷静に分析する。 
『なっなんだ知っているのか?』
 要の言葉に吉田のそこには存在しないいつもの皮肉めいた笑みが浮かんで見えた。 
「西園寺孝基って西園寺三兄弟の長男でしょ?次男が要ちゃんのお父さんの西園寺義基、三男が西園寺新三郎こと嵯峨惟基隊長。でもなんで苗字が相馬なの?」
『オメエはくだらねえこと知ってるんだな。孝基の伯父貴は結婚しなかったからな。そのまま相馬の家の私生児として育ったから相馬姓なんだ」 
「ふーん」 
 要の言葉に納得しながらもシャムは要の背後からゆっくりと進んできた美少女のデザインされた白銀の機体に目をやった。
「誠ちゃんお疲れ様!」
『やっぱりナンバルゲニア中尉も笑います?』
 完全に脱糞がトラウマになっているらしい誠の言葉にシャムは大きく首を振った。
「だって誠ちゃんが数億の人の命を救ったんだよ。偉いよ!」 
 シャムの言葉に誠はモニターの中で大きなため息をついた。
『じゃあねぐらに帰るぞ』
 要の言葉にシャムはうなづくとそのまま機体を『高雄』向けた。
『あっあのー。ぼっ……僕も要の顔が見たいんだな』
『ああ、勝手にしろ』
『西園寺。そんなことをオメーが決めることなのか?うちは東和の最新式を運用しているんだぞ。胡州の人間をおいそれと入れるわけにはいかねーな』
 突然ランが通信を入れてくる。
『アタシも胡州の人間だぞ……今更』
『別に許可は出さねーとは言ってねーだろ?貴官の活躍に感謝する。大したもてなしはできねーがゆっくりしてくれ』 
 ランの言葉を聞いているのかぼんやりと焦点の合わない瞳をぱちくりさせて金吾はうなづいた。
「要ちゃん……今秘匿回線使って通信するから」 
 シャムの言葉に要ははっきりと目を輝かせた。
『なんだ?悪巧みか?』 
「違うよ、金吾君てかなり残念?」
 シャムの言葉にがっくりと肩を落とす。そして大きくうなづいた。