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遼州戦記 保安隊日乗 7

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『要ちゃんの予想は合ってるみたいよ、エネルギー充填速度が予想より30パーセント早いわ』 
 艦長代理のアイシャの言葉に誠はレーダのエネルギーチャージ画面を覗いてみた。確かに充填速度は予想を上回るペースだった。
『速射が可能なのかあるいは……』 
『カウラちゃんもなかなか鋭いわね。計算では予想より威力が50パーセントでかいわよ』 
「え?」 
 誠はアイシャの言葉に呆然として振り返った。青ざめた表情のランがじっと誠を見つめているのが分かった。
『シャム!間に合わねえのか!』 
『ごめん!無理だよ!』 
 六機目の機動兵器の胴体にサーベルを突き立てながらシャムが叫んだ。21対1でなんとか互角に戦っていること自体、シャムの腕前ならではというところなのにそれ以上を求めるのは誠にも難しい話だった。
「死ぬんですかね、俺」 
 誠は干渉空間を展開しながら呟いた。要もカウラも黙っていた。
「西園寺さん、カウラさん。死ぬのは俺一人でいいですから離れてください」
『馬鹿言うな!部下を見捨てられるかよ』
『そういうわけだ。射線上にいれば多少の砲撃威力の低減くらいの役には立つ』 
「二人共!」 
 誠は自然とヘルメットの下から涙が流れていくのを感じていた。目の前の空間がピンク色に染まり、曖昧だった干渉空間が数キロにわたり明らかに分厚い質量を持って目の前に展開される。要とカウラは誠の機体に寄り添うようにしてその光の中で敵の砲撃を待つ様子を見せていた。
『エネルギーチャージ。継続しています』 
 パーラの言葉で明らかに予想時刻より長くエネルギー充填を行っていることが分かる。
「耐えてみせますよ……」 
『震えながら言うんじゃねえよ』 
 要が皮肉めいた調子でつぶやく。誠はさらに神経を集中して空間の層を厚くしていく。背後ではランもまた黙って干渉空間を展開していた。
『発射されました!』 
 パーラの言葉と同時にP24宙域に光が走る。誠は黙って伸びてくる火線を見つめ続けていた。
 衝撃、反動、続いて全身を痺れるような光の点滅が覆い尽くした。次の瞬間、機体の全システムが停止し、コックピット内部を覆っていた宇宙の輝きが消えた。
『おい、神前!』 
 要の叫びで彼女が生きていることを誠は知った。
「耐え抜いた……」 
 誠はすぐさまシステム再起動のスイッチを押すと同時に尻のあたりにヌメっとした感覚が走るのを感じていた。
『パーラ、耐え抜いたのか?』 
 そんなカウラの問いにパーラはそのままP24宙域の画像を再生した。砲台の発泡と同時にピンク色の空間が砲台を包み込み爆縮するのが確認できる。
『なんだ?神前の仕業か?』 
「僕には……そんな芸当はできませんよ」 
 脱糞をバレないように誠はゆっくりと呟いた。
『何かが空間転移した形跡があります……いったい誰が……』 
 パーラが呟くと突然シャムの表情が凍りついた。
『嫌だよ!俊平!』 
 7機目を撃破しながらシャムが叫ぶ。誠の再起動したコックピットで再生された画像の中で巨大な砲台の砲身に突入するアサルト・モジュールの姿が見て取れた。
胡州の旧式のアサルト・モジュール零式が砲身の目の前で爆散する様子が映し出される。
『なんで?あいつが?』 
『西園寺康子か……現在『信太』を旗艦とする摂州州軍が進行中だ。彼女なら『信太』からあそこまで吉田の機体を跳躍させるくらいの芸当はできる』
 カウラの言葉に要は母のぽわわんとした顔と鋭い目つきを思い出して苦笑した。
『パーラ、識別ビーコンは出てたのか?』 
 どこまでも冷静な調子でランがつぶやく。
『はい、……確かに……吉田少佐でした』
 パーラが自分の言葉を確かめながらつぶやく。
『体当たりなんてはやらねえのにな』 
 要はそれだけつぶやいてモニターの中で上を見上げた。 
 最悪の出来事の中でもパーラの言葉に反論をするはずのシャムだが、相変わらず劣勢な戦いを強いられていて通信を入れる余裕もない有様だった。
『目標ですが再びエネルギーチャージを始めました。予想発射時間は三分後!』 
『あちらの主砲の損傷は?』
 アイシャの問いにパーラは首を横に振った。
『おい、次弾も予測オーバーの威力か?今度こそジ・エンドだな』
『西園寺。最後まで諦めないことだ』 
 カウラの言葉に少しばかり腰を揺らしながら誠はうなづいた。もうこうなれば脱糞も糞もなかった。精神を集中させて目の前に再び干渉空間を展開した。
『5パーセントは威力が低減していると思うぞ』 
「わかりました」 
 気休めにもならない威力低下の予測をするランの機体をモニター越しに見ながら誠は苦笑した。


  殺戮機械が思い出に浸るとき 37

 信じたくないこと。8機目の機動兵器にサーベルを突き立てながらシャムは涙が流れていくのを感じていた。
「死んじゃったの……本当に……消えちゃったんだ……アタシを残して……」 
 倒しても機動兵器はそれをカバーするように現れ、砲台への道を塞ぐ。グレネードで牽制しながら敵のパルスライフルの攻撃を干渉空間で避けてはなんとか道を開こうとするが、数に勝る敵に全身を阻まれていた。
『ナンバルゲニア中尉!急ぐんじゃない!我々が急行するまでなんとか耐えていればいいんだ』 
 通信でロナルドの第四小隊が向かってきているのがわかるが、それ以上にシャムには砲台のエネルギーチャージが気になっていた。
「今度撃たれたら誠ちゃん達が蒸発しちゃうよ!」 
 シャムの言葉にロナルドは口をつぐむ。シャムの直感は誰もが共通する認識だった。すでに30パーセントのエネルギーチャージが終わった砲台の砲身が青く不気味に光っている。
「俊平が死んじゃって、今度は誠ちゃん……みんな置いていってしまうんだね、私を」
 ヘルメットに涙が滲んだ。シャムはそのまま叫びを上げて9機目の敵の頭部をレールガンで撃ち抜いた。涙はその間も絶え間なく流れていた。
『おいおい、勝手に殺すなよ』 
「!」 
 突然の通信。それは聴き慣れた言葉の響きを放っていた。
「俊平!どこにいるの?うわっ!」 
 思いもかけない言葉にシャムは棒立ちになっていたところにインパルスカノンの直撃を受けそうになるが、機体は瞬時に反応してそれをかわした。
『大体クバルカ中佐の説明を聞いてなかったのか?俺はプログラムだぜ。肉体なんてものはただの入れ物さ』 
 シャムが呆然として操縦桿の手を離していた間にもシャムの機体は自分の意思でも持っているように次々と3機の敵機を屠っていた。
「もしかして……俊平はクローム・ナイトになったの?」 
『ようやくわかったか。こいつのOSとは結構相性がいいみたいだな。処理速度も十分だし結構暴れられるぞ』 
 行く手を阻んでいた2機の機動兵器を撃破すると一気にクロームナイトは加速した。
『操縦はあとは任せた。俺は機動兵器のコントロールを奪う』 
 シャムは涙を拭って笑顔を作ると操縦桿をしっかりと握り締め、足のペダルを踏みしめて一気に敵艦に進撃を開始する。
「うん!おかしいね……嬉しいはずなのに……まだ涙が出てくる」
『バカ』