小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

遼州戦記 保安隊日乗 7

INDEX|57ページ/63ページ|

次のページ前のページ
 

「砲台の自衛戦闘モジュールは24機。掻き回されて集中力が途切れたらジ・エンドだ」 
 アイシャとカウラの話に誠は今ひとつ理解しかねるというように首をひねった。そんな誠の首に手を回した要はそのまま誠にヘッドロックをかける。
「オメエのことなんだよ!オメエの!」 
「クッ苦しいですよ、西園寺さん!」 
「苦しいのは生きてる証拠だ。カウラの言うようにオメエが展開した干渉空間に多少のゆらぎがあっただけでアタシ等全員蒸発することになるんだぞ!」 
「多少は威力は緩和されても遼北、西モスレム国境にでも当たればそれこそ核戦争勃発ね」 
 要の言葉もアイシャの言葉も誠はよく理解できた。ただ、余りにも物事のスケールが大きすぎて要がヘッドロックを止めて立ち上がることができても、浮遊感のようなものを感じるだけで今ひとつピンと来なかった。
「誠ちゃん。安心していいよ。誠ちゃんは独りじゃないもん。要ちゃんがいて、カウラちゃんがいて、アイシャがいる」 
「シャムちゃん、なんで私だけ呼び捨てなの?」 
 アイシャの茶々を無視してシャムは誠を見上げながら立ち上がった。
「アタシもみんなも頑張るから……ね?」 
 シャムの言葉に誠はようやく自分の役割が数億の命を背負ったものだと理解することができて足が震えているのを感じていた。


  殺戮機械が思い出に浸るとき 34

「これで良かったの?」 
 摂州軍旗艦である重巡洋艦『信太』の艦長室で艦長の椅子に座った西園寺康子の言葉。部屋の中央に置かれたソファーに腰掛けていた吉田俊平はただ笑顔でそれに応えた。
「私情は挟まない主義でして……それよりこれですべて仕掛けは揃いましたから……。それにしても相手にしているのが俺な分だけ手が打ちやすい」 
「あなたにしては随分と保安隊の仲間を信用しているのね。特に神前君だったかしら。彼にはそれほどの力があるの?」 
 康子の言葉に吉田は静かに目を閉じてみせた。
「神前の奴は……信用しているというわけじゃないですよ。だから今回あなたにご出馬願ったんですから。それに俺が信用しているのはシャムだけです」 
「へえ、あの娘に気があるわけ?もしかしてロリコン?」 
 いたずらめいた康子。吉田は特に反論もせずにソファーの上で伸びをしてみせた。
「俺はようやく自分が何者なのか知った……次はあいつの番ですよ。自分が何者か知らずにただ場当たり的に生きていられる時代は終わった。あいつも俺も」 
「彼女は不死人でしょ?それ以外何かあるの?」 
 康子の『不死人』という言葉にそれまでにない緊張した視線が吉田から康子に突き刺さった
「そんな目で見ないでよ。一応、私も遼南宮廷で育った身よ。噂は聞いてるわよ……というか私も『不死人』なんだけど」
 康子の言葉に吉田の視線は緊張の度合いを弱めた。
「不死人自体は遼州を探せば両手に余る程度はいるでしょ。俺の知っている限りでもあなたと嵯峨惟基、島田真人、クバルカ・ラン、『預言者』ネネ、『廃帝』ハドくらいの名前はすぐに浮かびますから」 
「考えてみればすごいわよね。新ちゃん意外に三人も不死人を抱えている部隊なんて他にないんじゃないの?」 
「まあ部隊長が意識して集めたところもありますから」 
 康子に『新ちゃん』と呼ばれる嵯峨の手腕が部隊構成に大きな影響を与えたことを吉田も理解していた。
「ただ普通の不死人とはシャムとクバルカ中佐は毛色が違うんですがね」 
 それだけ言うとニンマリと吉田は笑った。
「どう毛色が違うかは教えてくれないんでしょ?」 
 こちらも対抗するとでも言うように康子も笑みを返した。
「聞き出しますか?力尽くで」 
 身を乗り出す吉田に康子は静かに首を横に振った。
「今は私達で争う時期じゃないわ。今はね」 
 康子の静かな口調に吉田は恐怖を感じた。彼の上司の『新ちゃん』こと嵯峨惟基をして『地上最強の生物』と呼ばれる康子の恐ろしさは吉田自身も体験したことがあるだけに、彼女を前にして秘密を守り続ける自身は吉田にもなかった。
「それじゃあいずれは……」 
「いずれの話はしないことにしているの。私の主義よ」 
 再び定型的な笑みを浮かべる康子に吉田は彼女を頼らざるを得ない状況にあることの恐ろしさを再確認するのだった。


  殺戮機械が思い出に浸るとき 35

「各部チェック」 
 誠はいつものアサルト・モジュール起動作業を始めた。薄暗いアサルトモジュール05式のコックピットの中。実践となるといつもの稼働とは緊張感が違った。
『例の砲台。どう動くかね』 
 同じように作業を続けている要から通信が入る。
『現在L23宙域から動かないそうだ』 
 カウラの言葉に要の苛立ちを感じながら誠は作業を続けた。
『なあに、24機の無人機落とすだけだ、簡単じゃないの』 
 浅黒いフェデロの顔がモニターの一隅でにやけていた。
『フェデロ、軽口は止めろ』 
 第四小隊のフェデロ・マルケス中尉の言葉に隊長のロナルドが苦笑いを浮かべる。
『お姉様は私が守ります』 
『私も』
『オメエ等は静かにしてろ』 
 楓と小隊員渡辺かなめ大尉の言葉に要が心底嫌そうな言葉を紡ぐ。誠は苦笑いを浮かべながら脚部のアクチュエーターの動力の確認を行っていた。
『じゃあ僕も』 
 第三小隊のシャム言うところの『期待の新人』アン・ナン・パク曹長の言葉に誠は背筋に寒いものが走るのを感じていた。誠には同性愛のけはないが何度となくアタックしてくるアンにはただ苦笑いを浮かべるだけで済ますことを心に決めていた。
『オメー等今回の相手はあの吉田だ。相手が相手だけに相当苦戦するだろうからな。シャム、おい!シャム!』
 部隊長であるクバルカ・ランの言葉に呆然としていたシャムが一気に意識を取り戻したというように目を見開く。
『大丈夫なのかよ』 
 カウラの言葉に一瞬目を見開くが再び腑抜けのような表情に戻るシャムに、誠は不安のようなものを感じた。
『アタシは神前のフォローに入るからオメエはそのまま一人で突入する形になるんだ。気合い入れろよ』 
『ランちゃんに言われなくてもわかってるわよ』 
 多少腹が立ったというように口を尖らせるシャムに誠は安心感を覚えてにやりと笑った。
『本当に一人で大丈夫なのかね、あのお子様』
 閉鎖通信で要が誠にだけ本音をつぶやく。ただ誠は根拠はないが何故か大丈夫なように感じていた。その直感が全く根拠が無いことはわかっていたが、全てがうまくいくような気がしているのに誠自信少し不思議に感じていた。
『各機へ、現在目標はL24宙域へ移動中、繰り返す、L24宙域へ移動中』 
 管制官のパーラ・ラビロフの言葉にこれまでにない緊張感がハンガーを支配した。
『L24宙域。胡州系コロニー狙いか……それとも東都でも狙うつもりか?』 
『西園寺、予想屋の真似はやめることだ』 
 要の軽口をカウラが軽くたしなめた。誠は右下のブリッジを映す画像の中の艦長席で無意味に手を振る艦長代理のアイシャの姿に呆れながら苦笑いを浮かべていた。
『吉田のコピーだからな。P24宙域に侵入してそのまますんなり遼北、西モスレムあたりに一撃っていう正攻法は取らないとは思っちゃいたが……』