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真冬の夜の夢じゃないよ

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あの夜。彼女が現れなかった夜から 何日か経った。
少々薄ら気味の悪い、不可思議な出来事を ぼくは忘れようと思った。
その為に ぼくはあの日から 駅へと向かう道を変えていた。

でも、その日は、疲れていたことと大き目の荷物を持っていた。変えた大回りの道ではなく、あの工事現場があった道を駅へと向かった。
「あ、あの、すみません」
はっきりと聞こえたその声に足を止めようかと思ったが、怖かった。
「あ、あの、すみません」
もう一度掛けられたその声に足を止めた。振り向くべきかと下唇を噛みしめた。
そんなぼくの前に 周り込んでぼくを見つめる女性は、あの彼女だった。
「あ…」
「はい」
「きみは この世の人?」
「ええ」
ぼくは、目の前の女性をひと通り見た。
「……みたいだね」
「少しお話ししてもいいですか?」
「なに?べつに ぼくのほうは 話すこともないけど」
本当は、たくさんのことが訊きたかった。
なによりこの道を選んだことも こうしなくては、と何かに衝き動かされたような気がしていたからだ。彼女と逢うために 何かが働いた必然のこと。
寒空の下、ぼくと彼女はホースの電飾じゃなく、建物に飾られたクリスマスのイルミネーションの煌めく傍らで 立ち話を始めた。手に持っていた荷物を足元に置き、コートのポケットに両手を突っ込んで 視線だけを彼女に向けた。

肩で大きく息をした彼女は、星が映るほど 大きな黒い目をぼくに向けた。彼女の目にイルミネーションの煌めきがチカチカ揺れていた。
「死んだのは 妹です。双子の妹…」
ぼくは、何も言えなかった。
「ご存知ですか?此処での出来事」
「すこしだけ」
「そうですか。あの日、突然引っ叩いてごめんなさい」
「はあ、痛かったです」
「昨夜、あの子が夢に出てきたの。今夜、あなたに逢いなさいって」
ぼくはまた 可笑しな夢か想像の世界に連れて行かれる気がした。まさかではある。
「逢って何を?」
彼女は、出来事のひとつひとつを話し始めた。まるで物語のように滑らかな口調だった。

道の脇とはいえ、人通りもあるところで、ただ突っ立て話をしている女性と頷きながら聞いている男は、傍目から見たら可笑しく見えるだろう。
でも、そんなことはしだいに気にならなくなっていった。寒ささえも……薄れた気がしたが やっぱり寒かった。ときおり 白いものが目の前を舞い落ちていった。

作品名:真冬の夜の夢じゃないよ 作家名:甜茶