真冬の夜の夢じゃないよ
いつからか 彼女が じっとぼくを見て寂しそうな顔をすることがある。
その理由をぼくは 訊きたくはなかった。たぶん ぼくの予想は当たっている。
想像と現実が重なり合うと 楽しめる物語ではなくなってしまうのかな。
ある夜、ぼくが退社した時には あの工事現場から電飾のついていた柵が取り外されていた。広い敷地には 完成したばかりの建物。それを取り巻く諸々の施設。きっと誰もが訪れたくなる華やかで落ち着いた憩いの空間がそこにあった。
ぼくは、振り返った。見まわした。そして、見上げた。
こんな晴れた綺麗な夜空の日に彼女は現れなかった。
改めて ぼくが彼女に抱いていた感情の深さを感じた。
寂しくて仕方がない。何処にいる? 分かるわけがない。
『この夜空を 彼女にも見ていて欲しい』ぼくの願いを始めに見つけた星に飛ばした。
その後、社内でもその場所の話は話題だった。
「でもさ、あの場所ってあれでしょ」事務の女性が言った。
そこにいた半分ほどの者は知っていたことだった。
(何だろう?)と気になりつつも 自分から訊くことはしなかった。
同僚の男が いいタイミングで訊いた。
「なになに? 都市伝説?」
「違うわよ。ほらこの話」そういって事務の女性は、パソコン画面にそのニュースを映した。ぼくは、押しのけるようにその画面を覗いた。
それは、まだぼくがこの街に来る前の出来事。
あの広い敷地の工事が始まる前の出来事。
クリスマスを目前に起きたひとつの美談とひとつの悲劇。
その出来事に関わるひとりの女性。それが彼女……。
作品名:真冬の夜の夢じゃないよ 作家名:甜茶