真冬の夜の夢じゃないよ
「それは お気の毒と言うか。でも驚いています」
ぼくは、訊きたいことを消し去るように夜空を見上げた。
「お話を聞いてくださってありがとうございました」
「いえ」
「妹は、楽しい時間を過ごせたと思います」
「ぼくが人違いされた張本人はどうなったのですか?」
「謝罪に来ました。許すことはできませんが 妹も少しは気が済んだと思います」
「また 妹さんのこと話したくなったら、ぼくで良ければ聞きますよ」
「よろしいの?」彼女は小さく呟いた。「嬉しい」
ぼくは、コートのポケットに入れていた手を出した。目の前の彼女を抱きしめそうになった。彼女の目がやや潤んだように見えて 手を止めた。
「私たちは双子です。だから生死にかかわらず 相手のことがわかってしまうみたいなの」
ぼくは、すぐにはわからなかった。
「あの子が傍に居てもいい?」
ぼくは、空から舞い降りてきた白いものを掌に受けた。
「これ、貴女の妹。いっしょに包み込んでいきましょう」
それが溶けてしまわぬうちに 目の前の彼女の手を握りしめた。
「『あなたと出逢えたことが大切な贈り物』 夢の中で妹が言ったの」
「出逢いが贈り物?」
「あの年のクリスマスの贈り物のふたりのテーマ。大切にできるもの」
ぼくは、彼女の肩を抱き寄せた。
「きみは 此処にいるのかい?」
ほら、今夜はきみもいっしょだよ。
きみと歩いていたこの道を ふたりの女性の想いとともに歩いて行こうと思う。
― 了 ―
作品名:真冬の夜の夢じゃないよ 作家名:甜茶