ACT ARME10 謎謎謎謎
フォートとハルカの声が重なり、その言葉を追うようにレックが火をともした棍であたりを探る。
そして見つけたのは小さな影。とてとてとこちらに歩いてきた。
「あらかわいぃ〜。」
その姿が見えると同時にアコが語尾にハートマークを付けた猫なで声を発する。見るとハルカもアコほどはっきりと表れてはいないが、明らかに表情が和んでいる。
まあ実際かわいいから仕方がない。身長50センチくらいの黒いクマのぬいぐるみが二本足で立っていたら誰だってかわいいと思うだろう。
「うんかわいい。確かにかわいいね〜。けど」
ルインはふらふらとクマ吸い寄せられていくアコの襟首をつかんで引き戻す。
アコが発したカエルが喉を絞められた時にこぼしそうな声と、ルインの頭にたんこぶがこさえられたところで、アコがルインに怒る。
「何すんのよ。」
「何すんのよじゃないでしょうが。これまでの流れからしてあのちっこいクマも何らかの能力もって襲い掛かってくると思わないの?」
「思わない。」
まさかの即答。
「・・・なぜに?」
その問いに、アコは親指を立てつつ100点満点の解答をよこした。
「かわいいは正義!!」
「どやかましいわ。」
「 オナカスイタ・・・」
アコとルインが漫才を繰り広げていた時、かすかにつぶやく声が聞こえた。
聞き間違いかと思い、少し黙って耳を澄ましてみる。
「オナカスイタ」
いや、聞き間違いではない。はっきりと聞こえた。今このクマが確かにオナカスイタと呟いた。
て、ちょっと待て。喋った・・・だと?
「え?おなかすいたの?ちょっと待って。」
このクマが喋ったことにも何の違和感も覚えないまま、アコがポーチの中身を漁る。
「はいこれ。どーぞ。」
差し出したのはお昼のおやつ用のクッキー。掌に乗せて差し出そうとしたところをルインが、今度は言葉で制止する。
「あい待ったアコちゃん。」
「なによぅ。エサあげちゃダメっていうの?」
アコが頬を膨らませる。
「いや、あげるのは構わないけど、手であげるんじゃなくて、そこに置いてからあげて。」
珍しくまじめな口調で頼むルインに、アコは素直に従った。
クッキーをクマから少し離した地面に置いて、二人はそばから離れて様子を見る。
クマはじっとクッキーを見つめていた。
気のせいだろうか。一瞬クッキーを挟んで向こう側にいるクマの姿が揺らめいて見えた気がする。
「!??」
何が起こったのかがよくわからない。そこに置いてあったはずのクッキーが忽然と消えたのだ。
催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなものでは断じてない。
もしそうであるなら、フォートの眼が決してその瞬間を逃すはずがないのだから。
流石にこれは不気味である。このクマは、何か得体のしれない力がある。
「オナカスイタ。モットチョウダイ。」
再びクマとの間に揺らぎが見えた。
「全員後ろにッ!!」
洞窟内に響く鋭い声。その声にはじかれるように全員後ろに下がった。
「きゃ!?」
ハルカの悲鳴。見るとハルカの肩にクマがしがみついている。
「いつの間に!?」
ハルカはすぐさま振りほどこうとする。しかしそれができない。このクマ、見た目に反して掴む力が異常なまでに強い。振りほどけないどころか、その力で肩の骨が折れそうになるほどだ。
フォートがいち早く発砲する。銃弾を受けたクマは、本物のクマのぬいぐるみが投げ飛ばされたかと思うほど、あっけなく飛ばされていった。
ぽてりと落ちたその体。立ち上がるというには完全に重力を無視した、まるで頭から糸で引っ張られるかのように起き上がり、ゆらりとこっちを向いた。
思わず一歩後ずさる。だが・・・
足から上は一切微動だにしないまま、足だけを高速で動かしこちらに一直線に向かってきた。光源を用意しなければ真っ暗な洞窟。そこにかわいい顔をして無表情のまま突っ込んでくる小さいクマ。もはやホラーである。
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
流石に悲鳴が上がる。その悲鳴を突っ切って、拳に電撃を纏わせたカウルが突撃する。
互いが一直線に突っ込む二つの影。だが、片方の影は二つが一つに交わる前に消えた。
しかし、消えた影の行先を知り、それに対応できるスピードがある以上、何ら問題はない。
「そこだッ!螢光討!!」
後ろを振り返りざまの一撃。まともに食らったクマは、再び大きく向こう側へと吹っ飛ばされた。
それを見ていたルイン達から歓声があがったが、カウルはその違和感に困惑していた。
今、確かに拳を叩き込んだはず。なのに、この感触は・・・
ぽてりと落ちたその体。立ち上がるというには完全に重力を無視した、まるで頭から糸で引っ張られるかのように起き上がり、ゆらりとこっちを向いた。
デジャヴ。先ほどと寸分違わぬ映像。違ったのはそれを見たルイン達の冷や汗である。
フォートの銃弾に続き、カウルの拳の一撃にも全くの無傷?そんなばかな。
攻撃を受けた際のクマに防御している様子はない。だが、何らかの方法で攻撃を防いでいると考えるしかない。
「炎精(アグニ) エクスプロージオ!」
アコがクマのゼロ距離で爆発を起こす。爆炎に飲み込まれたクマは、しかし全く意に返さずそのままの姿で立っていた。
「うっそでしょ!?」
クマがアコの方を見る。
「・・・げっ」と口に出すよりも早くクマが突進してきた。
一定の距離まで近づいてきた瞬間、また姿が消えた。
だが、さすがに三度目となるともう慌てない。アコの後ろにその姿が現れた瞬間、ルインが一太刀の元に斬り伏せた。
が、やはり相手は無傷のまま平然と起き上がってきた。追撃しようにも、相手の得体が知れない以上、下手に突っ込むのは危険である。
ただ相手の行動パターンは完全にワンパターンであるため、対処は楽である。
最も、いくら対処できたとしても、倒せなければ意味が無いのだが・・・。
対処法が見つからないまま、同じ光景が何回か繰り返される。そろそろ打開策を編み出さねばならないと思った矢先、吹っ飛ばされたクマがピクリとも動かなくなった。
もしかするとハッタリかもしれない。が、先程まで全く同じ行動を繰り返していたクマがそんな策を講じてくるかと言えば微妙だが。
しばらく様子を見たが、やはり動かなかった。と、ここでジュンが思いついた。
「もしかして、お腹が空き過ぎて動けなくなったとか・・・?」
「・・・あぁ。」
大いにあり得る。そもそも最初の一言がオナカスイタだったのだ。戦い慣れている者たちからすればアホらしいが、相手が相手なだけに十分考えられる。というか、もうそれしか考えられない。
「それで、これからどうすればいいんだろう?」
言われて気が付いた。ここは行き止まり、先ほどまでのように行き当たりばったりに進めばいいというわけにはいかない。
「おそらく、ここが目的地のようです。」
自分の周囲を探索して、ゴマの足跡を発見したツェリライが声を上げる。こういう時には本当便利な奴である。
しかし、無事行き先が分かったのはいいが、どうすればいいかまではわからない。
「ゴマの足跡はどこまで続いていますか?」
レックの後ろについていたジュンが尋ねる。
作品名:ACT ARME10 謎謎謎謎 作家名:平内 丈