ACT ARME10 謎謎謎謎
その姿の神々しさは、まるで神が遣わす神獣であるといっても誰も疑わないほどだ。
その大きな馬は神獣であるかのような高く響いた声で一鳴きすると、神獣の気品さなどまるで感じさせないほど猛り狂いながらこちらに突進してきた。
まあ、神獣であるかのようというのはこちらが勝手に抱いたイメージなのだから、それを押し付けるのはエゴというものか。
などとのんきに、どうでもいいことを考えている暇はない。
あの突進のスピードと迫力は、食らったらただでは済まないということを如実に示している。
あわてて回避する三人。スピードこそ速いが動きは直線的なため、回避自体はそう難しくはない。
だが、その馬が走り去った跡は、まるで某車型タイムマシンがタイムスリップした直後のように、地面に対して炎の帯がまっすぐ立ち登っていた。
そういえば先程からやたらと熱を感じていたが、あの炎のように揺らめくたてがみ、まさか本当の炎!?
ますますあの馬に当たってはならない理由が増えてしまった。いや、それだけではない。
あんな危なっかしいもの相手に、いったいどうやって攻撃を加えろと?
カウルが突進後の隙にとびかかり拳を叩き込もうとするが、至近距離に近づくだけで猛烈な熱風が体に噴きかかってしまい、とてもじゃないが攻撃できたものではない。
フォートが発砲し、ハルカがクナイを投げる。しかし、ダメージが入った様子はない。いや、というよりは、あたる直前で熱によって溶かされている?
改めてこいつをどう退けるかが分からなくなってしまった。
三人が攻めあぐねていると、馬が前足を高く上げ、天高く上を向いた。
また突進が来ると身構えた三人だったが、繰り出してきた攻撃は違うものだった。
ズシンと高く上げた体を地面につけると同時に、ごうと唸る火球を吐き出してきたのだ。しかも連続で。
近づくだけで火傷しそうになるほど熱い炎が、弾幕と化し襲い掛かってくる。
「うわうわうわうわうわ!勘弁してくれ!」
吐きだされる火球を縦横無尽に飛び回りながらよけるカウル。
一応射撃技はあるにはあるが若干溜めを必要とするため、うかつに撃とうとするとまるこげにされてしまう恐れがある。
遠近共にダメなカウルがとる行動は、あえて大げさなアクションで飛び回り、敵の錯乱をすること。ぱっと見無駄な動きに見えるが、きちんと考えての行動だ。
しかし、いくら相手の注意をそらせても、こちらに決定打が無ければ意味がない。見るからに炎属性である相手に対して有効なのは水もしくは氷だが、八人のうちそれが使えるのはアコのみ。
だが、そのアコは今この場にはいない。加えて言うなら行動不能なうといった状態なのでやはり頼れない。
今この場にいない戦力を当てにしていても仕方がない。今この場にいる三人の中で一番効果が見られるのは、風を操ることができるハルカである。
水ほどではないが風は炎に対してやや有効のようだ。実際、ハルカの起こした風で炎馬はダメージを受けたようなそぶりを見せた。
だが、相手も自分の弱点を突く相手をみすみす見逃すような間抜けではない。陽動を行っているカウルを無視して、ハルカを重点的に狙うようになった。
「やっぱそうくるか・・・!」
カウル・フォートの攻撃は無効、ハルカの攻撃もダメージはあっても決定打にはならない。
となればやむをえまい。
「撤退!奥に逃げるぞ!」
カウルの一声で三人は一度一斉に散り、各自バラバラに動きながら、しかし同じ方向に逃げ始めた。
場面は戻って再びルイングループ。こちらはこちらで苦戦していた。
まず見た目がえぐい。体長3mを越すカタツムリなど、よほどの物好きでもない限り見たくない。ナメクジ系の生き物が苦手という人にとっては一発で気絶させられそうである。
そしてこいつ、打撃・斬撃攻撃が完全無効なのである。
そして今闘っている面子でそれ以外の攻撃ができるのはレックのみ。しかし、炎属性の攻撃の効果はいまいちのようだ。
色々試してみれば何かしら弱点がつかめそうなものだが、その色々な攻撃ができる唯一のアコが絶賛行動不能中なのだ。
そしてこちらは逃げようにもその動けないアコと怪我をしているジュンがいるためそれもできない。
敵のインパクトに圧倒されて、なんだかその場のノリがギャグのようになっているが、よくよく考えてみると結構ピンチである。
とりあえず試せるだけ試してみよう。
「レック!アイツの隙を何とか作って!」
ルインの無理難題の直球攻撃。
「はい!?こっちの攻撃が効かないのにどうやってやるのさ!?」
「知らん!なんとかして!一瞬でいいから!」
レックの反論が通じないのは百も承知。このあたりになるとレックも反論している段階で諦めの境地に入っている。
「あぁもう!焔連弾(フレイバルカン)!」
完全にやけくそで炎弾を乱射する。わかりきったことではあるが効果はいまいち、というか効いていない。
だがカタツムリの関心を、先程までちくちく攻撃を繰り返していたルインからレックに変えることは出来たようだ。
すぐさまレックは脱兎のごとく逃げる。そのすぐ後ろを粘液玉が追従する。
これでどうやらルインの要求した隙を作ることができたようだ。
ルインは居合いの構えを取り、深く腰を落とす。あれは破断閃のかまえか。
いや、破断閃にしては腰を深く落とし過ぎている。呼吸のためも大きい。
「剛・破断閃!!」
気合一閃。破断閃よりも溜めが大きい分、威力が増した鋭く深い一撃がカタツムリの頭に直撃する。
だが効果はイマイチのようだ。現実は非情である。
「だろうと思ったよこん畜生!」
せっかくの新技がかませ犬と同格になってしまった悲しみと、にっちもさっちもいかなくなった現状に対する苛立ちが入り混じって大声でぼやく。
と、その時だった。突然頭上から大きな音が響いたかと思うと、大小入り混じった瓦礫の雨と、グロウと、なんか黄色く光り輝く物体が降ってきた。
降ってきた瓦礫の雨はカタツムリにもルインたちにも平等に降ってきたが、グロウと光り輝く物体はカタツムリのど真ん中に命中した。
そして命中したその瞬間、激しい音とともに線香花火のような火花はじけ飛ぶ爆発が起こった。
そして絶叫、は口が無いので上がらなかったが、口がついていればおそらく上がっていたであろう絶叫を上げつつ、身悶えるように体を激しく揺らしながらやがて動かなくなった。
「・・・・・」
あまりに唐突で時間にして5秒程度で終わってしまったため、その場にいる全員、状況が理解できずに立ちすくむしかなかった。
「だーっちくしょう。ひどい目にあったぜ。」
動かなくなったカタツムリから野太い声が聞こえ、やがて一つの影が姿を現した。
どずんと音を立て地面に着地した影の正体はグロウだった。
「どしたのグロウ?あんな所から落ちて・・・ どしたのその体!?」
ルインの質問が途中で変わったのは、レックがつけた明かりによって照らし出されたグロウの姿が、真っ黒焦げだったからである。心なしか、焦げ臭いに酔いも漂わせている。
まっくろくろすけなグロウは、一言も発さずに自分がさっきまでいた場所を指さした。
作品名:ACT ARME10 謎謎謎謎 作家名:平内 丈