ACT ARME10 謎謎謎謎
さらにそこから数刻後、残りの面子であるハルカ、カウル、フォートが現場に到着した。
そしてしばらく待っても誰も来ず、携帯も通信機もつながらないため、自分たちも中に入るというところまでは同じルートを辿っていた。
しかし、三人が足を踏み入れようとした時、ハルカが制止させた。
「待ってください!何かここ、空気の流れがおかしいです。」
そう言ってハルカは慎重に辺りを調べ始めた。
そして空気の流れがおかしい理由は、地面からわずかだが風が昇ってきているからということが判明した。
普通、地面から風が立ち上ってくるなど起こらない。起こらないはずのことが起こっているということは、それが起きるだけの理由があるからだ。
「下がっていろ。」
と、徐にフォートが懐を探り、手榴弾を取り出した。
そしてピンを抜き、ハルカが怪しいとにらんだ地面に放り投げた。
ボンッという軽い音とともに手榴弾が爆発する。思ったよりも爆発が小さかったのは中の火薬を少なめにしてあったからか。
だが、そんなことは二人とも全く気にならなかった。
なぜなら、その小さな爆発によって生み出された穴が、誰がどう見ても爆発の規模に見合わないほど大きかったからだ。
「なんだこれは!?」
「落とし穴、でしょうか?」
「そのようだな。恐らく他の者達からの連絡が途絶している理由もこれだろう。」
確かに、この穴は相当深そうだ。試しにハルカが穴に石を投げ入れ、音を感じてみると、ハルカが感知できるぎりぎりの距離まで石は落ちたようである。
三人は穴の淵を渡り、落ちることなく洞窟の中へと踏み出した。
さて、こちらは大人しくハルカの到着を待っていれば避けられたはずの事態を招いたルインを含む五人である。
「う〜〜ぅ・・・」
地面に落下し、しばしの間気絶していたルインが目を覚ます。顔をあげ、あたりを見回すとすべてが闇で目を瞑っているのかどうかも分からなくなるくらいだ。
不意に、あの悪夢のことが脳裏をよぎる。それを大きく頭を振って振りはらい、仲間の無事を確認する。
名前を呼び掛けると、ツェリライとアコは返事が返ってきた。
しかしレックとジュンの返事が返ってこない。
「レック〜?ジュン〜?どこ〜?」
アコが火をつけて明かりを灯す。まずは足元から・・・!!?
「きゃああああああ!?」
アコの悲鳴がこだまする。洞窟内だけあって声が響き渡り、ぐわーんと銅鑼を鳴らした後の余韻のような音まで鳴り響いた。
反射的に耳をふさいだ二人がアコに駆け寄ると、アコは震える手で自分の足元を指差した。
そこにあったのは、首から先がなくなり、力なく投げ出されたレックの体があった。そしてアコはそれを自分の足で踏んでいた。
結局のところはすぐに救出されたので問題はなかったわけだが。
「死ぬかと思った。」
首から上が地面の中に埋まっていた状態から救出され、今まで聞いたことがないほどか細い声で率直な一言を言ったレックであった。
しかし、ほのぼの(?)としていられるのもここまでだった。
よっこらせと体を起こしたレックが少し離れた場所で倒れているのを発見したからだ。
三人はすぐさま駆け寄り、アコは孔を使い傷の治癒を、ツェリライはジュンの容体を調べる。
「これはひどい。すぐに治療しなければ・・・」
ジュンの様態を調べたツェリライは驚く。ジュンの体は複数骨折しており、全身ぼろぼろだったのだ。
思ったよりもジュンの怪我が深刻なことに一同は驚きを隠せずにいた。
「ただ地下に落下しただけでそれだけの怪我をしたってこと?」
もしかすると落下している途中で何者かによる攻撃を受けた?
しかし、ツェリライがくまなく様態を調べてみても、人為的に傷つけられた傷は見当たらなかった。
とりあえず原因解明は後だ。今は一刻も早く戻って病院へ連れて行かなければ。
「・・・俺は、大丈夫なので、早く、ゴマ、の、所に、行きましょう・・・。」
と、息も絶え絶えにジュンが言葉を絞り出す。
「何言ってんの。この怪我じゃ歩くこともままならないでしょうが。」
アコがそういさめるもジュンは苦しい声のまま一歩も引こうとしない。
段々行く・行かないの押し問答になってきたところでルインが割って入った。
「いい?ジュン。この洞窟のどこかに君が探しているゴマはいる。ツェリライが足跡追ったんだから間違いないと思う。」
「そうです。だから・・・」
ルインはジュンに喋らせないまま話を続ける。
「でもそれっておかしくない?もし君やアコちゃんが懸念しているみたいに、誘拐されたんだとしたら、足跡なんて残るはずないよね?」
「!!」
確かにそうである。足跡を辿ってここまで来たということは、ゴマは足跡を残してきた。そして近くに他の足跡は見当たらなかった。つまり「自分の足でここまで来ていた」ということになる。
念のためジュンにゴマがこういう場所に来る理由を尋ねてみたが、案の定知らないとのことだった。
「ゴマがどうしてこんなところに自分から来たのかはわからない。でも自分から来ている以上は自分からここに来るだけの理由があったってことになるよね?」
「・・・・ゴマはどうしてそんな。」
「そこは考えてもわからないから仕方がない。重要なのは、今ゴマに危険が及んでいるかどうか。
わざわざ自分にとって危険そうだと思う場所に自分から行くかな?」
「それは・・・」
ここはゴマにとっては危険な場所ではない。つまり、こここそが自分たちが探していた場所・・・?
「行きます。」
「え?」
「俺はこのまま進みます。進んでゴマを迎えに行きます。」
ジュンを思いとどまらせるために行ったはずの提案が、さらにジュンを行く気にさせてしまったようだ。
予想外の返答にルインもさすがに言葉が返せなかった。
「・・・今言ったように、ゴマは危険な状態じゃない可能性が高い。むしろ、自分の方が助けられないといけない状況だと分かってる?」
声を静かに昂ぶらせるジュンに冷や水を浴びせるようにルインは言う。しかし、ジュンの心に灯った炎はそれでは消えるそぶりすら見せなかった。
「行きます。俺たちはこれまでも危険な目にあってきました。それを二人で乗り越えてきたんです。だから今度も絶対に乗り越えて見せます。」
声が震えているのは痛さのせいではなく、気が高揚しているからだろう。初めは途切れがちだった言葉も、いつの間にかよどみなく口から出ている。
「このままダメって言っても折れてない部分使ってはいずりながら進みそうな勢いだね。じゃあ仕方ない。結構な苦行になるだろうけど、前に進むよ。いいね?」
「はい!お願いします!」
ジュンは油汗でびっしょりの顔で飛び切り嬉しそうな顔を浮かべた。
「ま、とりあえずは歩けるくらいには回復しとかないとね。」
というわけで十数分後、派手に動き回るのは無理だが、普通に移動するには問題ない程度には回復した。
ルインはそれをみてそのまま全回復させればいいんじゃないかと暢気に構えていたが、ツェリライ曰くあまり極端な治癒回復はしないほうがいいそうだ。
これ以上余計な被害を生み出さないためにも一行はゆっくりと、しかし確実に一歩一歩歩みを進めていった。
作品名:ACT ARME10 謎謎謎謎 作家名:平内 丈