ACT ARME10 謎謎謎謎
たどり着いたのは見晴らしのいい野原。近くには町(キブではない)もあるので野宿する場所としては悪くない。
5人は地面を這いずり回るように色々と調べてみたが、やはり何か手がかりは見つからなかった。
と、ツェリライが諦めたように提案を出した。
「仕方ありません。非常に手間がかかりますが、ゴマさんの足跡を探索して行方を探りましょう。」
「いやいやいや、そんなこと出来るんなら最初からやりゃいいじゃん!」
ツェリライの言葉に即座にツッコミが入ったが、ツェリライもすぐに返す。
「人の話はきちんと聞くべきです。僕は確かに非常に手間がかかるといいました。」
「手間がかかるって、具体的にはどのくらい?」
「距離によって大きく変わりますが、長くて一日以上は費やすことも視野に入れておくべきかと。」
「なんですと!?」
一日って、一日って!元々は自分の胸の中のもやもやがムシャクシャするから始めた人探しだったのに、かなり面倒くさそうなことになりそうである。
露骨に嫌そうな顔をするルインを放っておいて、ツェリライはゴマのことについていくつか尋ねる。
「知っている範囲でいいのでお答えください。ゴマさんの足のサイズ、またはゴマさんの体重はどのくらいでしょうか?」
普通に足跡を探索してもまず足跡自体が見つからない。
そこでツェリライは対象の足のサイズ(欲を言えば靴型も)と体重から対象の足跡を見つけ出し、それを辿っていくという何とも地味〜な方法で探そうとしているのだ。
つまり最低条件として対象の情報が無ければ動きようがない。
そしてジュンの答えは、返ってこなかった。それも、知らないから答えられないというよりは、答えること自体を躊躇っているように見えた。
やはりルインの勘通り、ジュンは何かを隠しているようだ。
「あんたねえ、さっきから黙りこくってたって何も解決しないわよ。あんた、仲間助けたくないの?」
しびれを切らしたアコがルインより先に口をはさんだ。しかもその言葉のニュアンスから察するに、アコの中ではゴマは誘拐されたことになっているらしい。
「いいじゃない秘密の一つや二つ知られたって。あんたにとってその秘密と仲間とどっちが大切なのよ?」
アコがそう詰め寄るとジュンはいよいよ追いつめられてジリジリになっていた。
「ゴマは、何としても見つけたいです。」
「じゃあ躊躇うことなんてないじゃない。」
一つ一つ言葉を考えながら話をするジュンと、自分の思いのままに言いたいことをはっきり言うアコはきれいに対照的で、見ていて面白い。
「それが・・・」
「え?」
「それがゴマの身に危険が及ぶ秘密だったとしてもですか?」
この言葉に、アコは少しだけ考えたが、それでもやはりジュンに比べて早く返事を返した。
「ええ、あたしなら話すわ。だって今話さないとどうしようもないんだもん。」
先のことよりも今を優先させる。アコらしい答えである。
「とりあえず君の話したことが君たちにとって不利益をもたらすものであっても、それを使って君を強請ったりはしないよ。情報をどこかに売る趣味もないしね。だからその辺は安心していいよ。」
アコの説得とルインの言葉でジュンも決心がついたらしい。
一同はゴマについての情報を聞いた。すると、意外なことに揃いも揃って皆一様に困惑の表情を浮かべてしまった。
「それ、本当に本当のことを言ってる?」
ジュンはその言葉に真剣な顔をして大きく頷く。その顔はとても嘘をついているようには見えない。
「失礼ですが、そのゴマという方は何者なのでしょうか?」
こちらの質問にはジュンも困った顔をして首を左右に振った。
「それがわからないんです。ゴマ自身に聞いても自分のことはわからないと。」
まあ確かに、自分自身の生い立ちを知りつくしている者など、そうそういるものではないし、かくいうルインも、自分の過去の記憶がないのだから人のことを言えたものではない。
情報そのものは困惑するものだったが、これでゴマ捜索の道が一気に開けた。
ただ情報が聞けたからというだけではない。その情報があまりにも特異的であり、探索が容易だったからだ。
「あ、そうだ。ほかのみんなにも連絡とっておこっと。」
ルインが携帯を弄る間にも一行はどんどん足跡をたどっていく。この調子だと一日どころか一時間とかからなさそうだ。
そして、ついに足跡の行く先を探り当てた。
そこは、一言でいえば地面にぽっかりと空いた穴。
バス等大型の機械が入るには小さいが、人が入るには十分すぎる大きさのものであった。
イーセにとって洞窟はそこまでありふれたものではないが、だからといって珍しいものでもない。だから洞窟を発見したところで大した問題ではないのだが。
「この洞窟は、何者かの手によって作られた人工物のようですね。」
ツェリライが洞窟の壁を触りながら言う。なるほど確かにこの洞窟の壁は、明らかに自然物ではないもので補強されているように見える。
結構強めに叩いてみても、土一つこぼれないのだからなかなかの強度である。
洞窟からは特に何も聞こえないが、その奥から静かに唸るような「オォォォォ・・・」といった感じの効果音で表せそうな気配を醸し出している。中に何かが潜んでいるのかもしれない。
「さて、行こうか。」
ルインが洞窟の中へと踏み出す。しかし、まだ他の面子が到着していない。
そのことを指摘すると
「ああ、なんか今回は分派行動をしたほうがいいと思うんだ。きっと、おそらく、めいびー。」
と、なんとも適当な返事が返ってきた。はっきりいってついて行くのは非常に不安である。
こいつ、絶対待つのが面倒くさいから適当なこと言っているだけだよな。このまま素直にしたがったらロクなことが起こらない気がする。
そこでアコは閃いた。分派行動の人数分けを言わなかったということは一対八と分かれても問題ないということである。
ここは一つルインに生贄、もとい先行隊(一人でも隊と言えるのかは謎だが)として送り出してしまおう。我ながらナイスなアイデアである。
「ふふふ、おぬしも悪よのぉ。」「いえいえ、貴方様こそ。」というお決まりのやり取りを脳内再生しながらそのことを残りの四人に伝えようとした時だった。
突然激しい崩落音とともにルインが立っていた地面が崩れ落ちた。
それもアコたちが立っていた場所まで含めて。
「うそぉおおおおおおおおお!!?」
空を飛ぶ術など持っているはずもない5人は、そのまま重力にひっぱられ真っ逆さまに暗闇の中へと落ちて行った。
「どういうことだよおい。誰もいねぇじゃねえか?」
ルインの連絡を受け取って伝えられた場所にやってきたグロウは、そこで待っているはずのルインたちがいないことに戸惑う。
携帯をかけてみたが、うんともすんとも返ってこない。通信気も使ってみたがこちらもつながらない。
一応辺りを少し探してみたが、探しても見つかるのはぽっかりと空いた洞窟の入り口だけ。他には「何も変わったところはなかった。」
ここで連絡が来るのを待つか?
そんなまさか。我が辞書に待つという文字はない。
かくして一歩踏み出したグロウは、崩れ落ちる地面と共に闇の中に消えるという、ルイン達と全く同じルートをたどることとなった。
作品名:ACT ARME10 謎謎謎謎 作家名:平内 丈