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勇者タローと妻ラリ子~暴走協奏曲~

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「あれ、あの馬は?」
「アイツはおいていく。ひとりで二頭を乗りこなせって? はっ、ばかいっちゃいけねえよ。ローマの馬車でもありゃ、少しはらくだがね。けどあいにく、俺はローマ軍が嫌いでね」
 ヘルギくんは長いこと毒舌を吐いてばかりいた。
 舌噛まなきゃいいが。
 といっている矢先、彼は悲鳴を上げていた。
 ・・・・・・やっぱり・・・・・・。


「悲しいなぁ、王よ。だが一瞬だ、一瞬で楽になれるぞ。これでさらばだ」
 テオドリクス王は片膝をついた格好で、緋色の破けた外套を羽織り、黄金の美しい装飾をつけた剣を杖代わりに、身体を支えていた。
 ヘルギくんが思いっきり壁を馬の前足で蹴破らなければ、王は命を失っていたはずだった。
 突如として現れた私とヘルギくんを見ながら、ランゴバルドという宰相は、目を丸くした。
「おお、タロー! 無事であったか」
「王様、あなたのほうが危険極まりないでしょ!?」
「そうであった、そうであった」
 まったく、のんきというか何というか。
「陛下、陛下。あなたはあのクロノに、魂を取り込まれかけたんですよ。もう少しあせってくださらないと」
「王と言うのはな、タロー」
 剣で身体を支えて立ち上がる王。私を振り返りながら、言葉を続けた。
「王と言うのは、自分を犠牲にしても、守らなくてはならないときがあるんだ。それは国であり、民であり、家臣だ。私は国を守るためなら、命を張ってもかまわないよ。たとえ、一千ディナールだろうが、五千万リラだろうが、一億フランだろうが、千マルクだろうが――」
 はいはいはいっ! わかりましたから!
 ヘルギくんは輝きを取り戻したグラムの柄を強く握り締めた。
 彼の額から、ひとすじの汗が流れ落ちる。
 ああ、そうか。ヘルギくんも一国の主となる身だったな。
 きっと、テオドリクスさんの言葉に反応したんだ。
 いつか自分も、王になるのだから。
「一番の諸悪の根源が、こんな脂ぎった爺じゃ、斬っても斬り損じゃねえか」
「いうたな!」
 ランゴバルドは呪文を唱えて炎を起こした。
「炎の精霊、ザラマンドラ召喚!」
 うげ、ファウストの世界かよ!?
 ゲーテの小説で読んだぞ、確か主人公のファウスト博士が、老いに悲観して、メフィスト呼んで、魔法使って若返るんだっけ・・・・・・。
 その魔法というのがあやしいのなんの。
 コイツもそうなのだろうか?
「ぶわっはっは。愚かものどもめっ。ザラマンドラの炎は、地獄の業火! さあさあ、苦しみもがくがよい!」
 いやじゃ~っ、いやすぎるぞ! ラリ子! たすけてぇぇぇ! 


 「雑魚だな」
 ヘルギくんが鼻で笑う。
 え!? この状況で雑魚なの!? 
「悲しいのはどっちだろうな。ランゴバルド」
 ヘルギくんはグラムに念をこめると、床に突き刺した。
 あっというまに氷の柱ができあがって、部屋は一面スケート場よろしく、真っ白になった。
「貴様、まさか、精霊魔法が!?」
 ランゴバルドがひるんだ。
 おお、そんなに壮絶な魔法だったのか。
「あたりめーよ。俺は精霊魔法の継承者、グスタフ・ユングリングの息子だぜ? なめてもらっちゃあ、困るね」
 ユングリングって、はてどこかで聞いたな。
「タロー、忘れたのか。以前俺が教えたあれだ」
 兄の声が聞こえたので振り返った。
「おにいちゃん?」
 兄は淡々と説明を始める。
「ユングリング・サガ。それは、みのりある大地の王、フレイルが治めし豊かな国の物語――」
 おお、思い出したぞ。
 確か北欧神話だった気がする。
「そうさ。俺はフレイやチュールという神が好きでね。彼らは誰に対しても分け隔てない愛情を与えてくれたんだ」
 キリストの神とは偉い違いだね・・・・・・。
 もっとも、キリストの神は貴族だけの宗教にされてから、方向性変わったようだけど。
「小ざかしい、小ざかしいぞ、ヘルギ! 貴様の一族を根絶やしにするまで、わしはもがき続けてやる!」
「粘着質」
 ヘルギくんがもう一撃、魔法を食らわそうとすると、ランゴバルドは今度、水妖を召喚した。
「ウンディーネだ! これで氷攻撃など怖くない」
「あっ、ぐぬぬ」
 兄は、腕からブレスレットをはずし、ヘルギくんに投げた。
「なんだこれ」
「ドラウプニルだよ・・・・・・ただし使うたび、宝石が落ち、魔力を消耗するが」
 ヘルギくんは腕輪をつけると、あれ? 顔つき違わないか?
 いや、私にはそう見えたんだけど。
 なんだか、精悍なというか・・・・・・逞しい顔つきに変化した。
 テオドリクス王はぼろぼろに傷ついており、意識が朦朧としていたので、私は心配になった。
「陛下、しっかりしてくださいよ?」
「タロー、そんな顔するな、余のことよりもヘルギ王子を助けるんだ」
「で、でも~」




 お兄ちゃんがヘルギくんにわたしたドラウプニルという腕輪は、どうやら知識を高める腕輪だったらしい。
 賢さが増し、ランゴバルドの行動をすばやく察知しながら、ヘルギくんは剣を振るう。
 かっこいい!
 さすが、英雄?。
「感心しておる場合か」
 王様からしかられちゃった私は、お兄ちゃんにヘルギくんの援護を任せ、部屋の隅に王様を引きずり移動させた。
「あんたたち、何やってるの」
 入り口から顔を出すロゼッタちゃん。
「危ないから引っ込んでなさいっ」
 私の言うことを聞かず、ロゼッタちゃんはずかずかやってきて、ランゴバルドの背後に近づいていった。
 気づいてないし!
 ロゼッタちゃんはフライパンで彼の後頭部をがしがしと殴りつけ、ついでとばかり全身を両脚でげしげし蹴り飛ばした。
あんなのが私の娘でなくて、よかったよ!
 それにしてもフライパンはいったい・・・・・・あ、そうか。
 私の枕元に、ウインナーと一緒に目玉焼きが焼いてあったっけ。
 なぜフライパンがくっついてきたか疑問だなぁ。
 まあいいか。 
 ランゴバルドやっつけたんだし。
 ・・・・・・て、そういう問題か?
 それにまだ片付いたわけではない。
 ――クロノが待っているじゃないか。
 宙を浮かび、あいもかわらず、不気味な笑みを浮かべて私たちを見下ろしていた。
「クロノ。俺は今まで、悪魔も天使も、神さえも、信じることはなかった。もし見られるならば、この目で見たいと思っていたが、こんな現実なら俺はごめんだね。お兄ちゃんを困らせ、あげくにテオドリクス王やヘルギくんの命まで狙うとは・・・・・・命を奪った後、そして、何をするつもりだ?」
 私は素朴な疑問を投げかけてみた。
「理想郷を作ること。神の国、ヴァルハラや天国とか言うものに負けないような、な」
 このとき初めて、クロノが口を利いたのだ。
 気味の悪い、くぐもった声だった。
「だが、ヘルギやテオドリクス、それにオドワケルやお前の兄貴の命など、どうでもよい」
「なに?」
「じゃあ何が欲しいんだ」
 私とヘルギくんが同時に尋ねていた。
「クックック・・・・・・欲しいのは、タロー、貴様の命だ」