小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

勇者タローと妻ラリ子~暴走協奏曲~

INDEX|3ページ/8ページ|

次のページ前のページ
 

 まるでそれは、獲物を狙うメスライオンのようだった。
「よせ。きみとは戦えない」  
「うるせえ! 文句があったら剣を持て、剣を!」
 古代の剣士と、現代人の差はここにあるのかもしれないと、ぼんやり考えていた。
 戦士たちはああして興奮状態に・・・・・・いわゆるトランス状態になって、無敵状態になろうとする。
 

「戦えないんだ・・・・・・」

 
 ヘルギくんに泣いて頼む。
 なきながら懇願した。どうか戦わないで欲しいと。
 しかし願いは却下されてしまう。
 どうしたらいいんだ、どうしたら・・・・・・。


 ここで思い出したことがあった。
 ユースケにもらったペンダント。
 これで助かるだろうか。
 私はペンダントを握って、テトラグラマトンと叫んだ。


――テトラグラマトン!


 私は声をからすくらい、大声を張り上げた。
 一条の光とともにあらわれた見知った顔・・・・・・ユースケが黒い外套に身を包み、宙に浮いていた。
「おじさん。あんたも運が悪いね。その剣にあんたの命は吸い取られておしまいだなんて。・・・・・・悲しすぎるね」
「何言ってるんだ」
 私とユースケの会話を、ヘルギくんは不思議そうに聞いていた。
 ユースケは言葉をさらに続ける。
「グラムは、神の剣じゃない・・・・・・魔剣だよ」
 ユースケはまじないの言葉を唱えると、私の脇に置かれてあったグラムに力を与え、グラムは・・・・・・その瞬間から意志を持って話を始めた!
「私に生贄か? 主上・・・・・・」
 グラムはユースケに言うと、彼はグラムにうなずいた。
「ああ、そうだよ。あのオジサンがお前の生贄だ」
「あまり、うまそうじゃないが」
 グラムはいやみを言う。くそっ、剣の癖に生意気だな!
 いや、まずそうでいいのか。食われちゃかなわない。
「剣の? おいっ、そこの魔術師、きさまグラムに何をした! そいつは意志なんか持つはずがないだろ」
 ヘルギくんが怒号を上げるが、ユースケは聞く耳もたぬといった風。
「ははは。英雄ヘルギの時代は、とうの昔に終わってるのさ」
 ユースケはヘルギくんにものすごい風圧を魔法で送る。
 吹き飛ばされそうなヘルギくんは、それでも両足を大地に踏ん張って、突風の力に耐えた。
「お前はいったい、何者なんだ・・・・・・」
 私はユースケに尋ねた。すると、
「オジサンの味方ではないかもね」
 といって含み笑いをする。
 なんか、むかつく・・・・・・。
「け、剣にばかにされるなんて、前代未聞だね!」
「あれ、知らないの? フィンランドでは当たり前の話だよ、ねえグラム」
 ユースケは嘲笑を繰り返していた。
 うう、こ、こいつらは。
「クレルヴォ、か?」
 ヘルギくんがカマイタチを食らって切った唇をなめ、思い出したことをつぶやいた。
「おや、ご明察。さすがだねえ、英雄さん。そうだよ、そのとおり。英雄クレルヴォは、鍛冶屋のイルマリネンから剣を奪って逃走し、犬死するのさ。ククク。英雄の最期なんて、しょせん儚いものなんだよね」
「うっせぇ! 何が犬死だ。俺だけは違うってこと、証明してやらぁ!」
 ヘルギくんは槍を手に助走をつけて、ユースケに飛び掛った。
 だが、ユースケの周囲にはなにやらトラップが仕掛けてあり、ヘルギくんは魔法の壁ではじかれ、地面に落下した。
「あいたた。あいつ、まわりに何を仕掛けてんだ」
「だいじょうぶかい、ヘルギくん」
 私はヘルギくんを助け起こした。
 彼はすまないとひとこと言って、
「さっきは悪かったよ。俺の血の気が激しいのは、親父譲りなんだ」
 小さく微笑んだ。
「かまわない。それより、ユースケの様子がおかしいことが、気にかかる」
 私がユースケを見上げると、ヘルギくんもそちらを見上げた。
「うっ、あれはまさか」
 ヘルギくんは槍を構えたままで立ちすくんでいたので見ると、ユースケのまわりに、黒い霧がかかるのが見えた。
「俺は今までいた現実世界も嫌いだった。だから、この世界を創った言うのに! なのになぜ、ヘルギ、お前が英雄なのだ! 俺は、この世界も気に入らない。ここだったら、俺にも壊せる。なぜなら・・・・・・俺はここの神なのだから。創造主なのだから!」
 私は、そのユースケのせりふを聞いてはじめて、自分がなぜここにやってきたのか、役目をわかった気がした。
「そ、そうか、ユースケは、はじめから、私たちを巻き込むつもりで・・・・・・」
「巻き込むだって。どういうこと」
「さあ、細かいことまでは。でも、漠然とだがわかってきている。あいつは、私やヘルギくんにこの世を破壊するところを、つまり絶望を見せるつもりなんだよ」
「なんだって」
 私の推論を耳にし、ユースケは青ざめるヘルギくんと鋭い視線を送る私に、高らかな笑いを響かせる。
「あーっははは。さすがおじさんだね。きっと、俺の思想概念を理解してくれると、信じていたよ」
「バカな真似はよしなさい。私と一緒に、向こうへ帰るんだ。お母さんやお父さんが待っているだろう」  
 できる限り刺激しないよう、やさしく説得した。
 なのに、ユースケは瞼を細めただけだった。
「いいや、俺は向こうへは帰れないんだ。待っていてくれる人にも、会えない」
「どうして」
 ユースケは一瞬だけ、悲しそうな表情を作った。
 私は眉をひそめ、彼の様子を見る。 

「そうか、お前は知らなかったっけ」


 ユースケは深くため息をついて、私のほうを見つめた。
 その瞳はひどく憂いに満ちており、私に対する愛しささえ、感じさせる。
 いったい、なぜそんな顔をするんだね――。
「なぜ? 知らないというのは、やはり、悲しいことだ。俺のことすら忘れてしまい、あのことも忘れてしまったのだろう」
「あのこと?」
 横を向いていた顔をこちらに戻し、ユースケは言った。
「ユースケ、って名前に、聞き覚えがないか。・・・・・・太郎」
 私は必死に思い出そうとしていた。
 ヘルギくんは私を案じたのか、ユースケに怒号を張り上げる。
「このオヤジをきさまはどうするつもりだ、取り込む気か? お前もあいつの挑発に乗るなよ」
「いや、そうじゃない・・・・・・ええと、ユースケ・・・・・・」
 ふと、何かをひらめきかけた。
 ヘルギくんが槍のゲイボルグを投げつけたことによって、再び記憶ははじけ飛んでしまったが・・・・・・。
「よせ、ヘルギくん!」
「平和主義者は黙ってろ。ユースケっていったな、きさまはこの俺が、倒す」
「そして、グラムを取り戻すか? 残念だが、それはできないね」
 ふたりの激しい小競り合いが始まっているのを、私はただ、呆然と見守るほかなかった。
 そのうち、やっとユースケという名前の謎が解け始めてもいた。
「あ、あ、あ! そうか、ユースケ! 思い出した」
 私はユースケに近づいた。ヘルギくんは私に気づいて、
「危ないから戻れ!」
 と叫ぶが、わたしはおかまいなしだった。