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勇者タローと妻ラリ子~暴走協奏曲~

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「ぐはっ。な、なぜそれを? わかったぞ、お前、悪魔の使いか?」
 私のリアクションがおかしかったんだろうか、少年は苦笑をしていた。
「ちがうちがう。オレはユースケ。アンタと同じ、二十一世紀の人間だよ。でもここは違うぜ。古代のフランク王国。そして、驚くなよ。あんたを呼んだのはオレなんだ」
「な、なんだって!?」
「いや、手違いでさ。すまなかった。お詫びといっちゃ何だが、この剣やる」
 ユースケは私に赤い鍔の剣を渡す。装飾が立派で、竜の紋章がついていた。
「それは、神の剣。グラムっていうんだ」
「グラム? ・・・・・・って、重さの単位・・・・・・」
 ユースケは言うと想った、と私をはたいた。
「あほ。 まったくのオヤジだな、あんたはっ。神の剣だっていっただろ。別名をドイツ語でバルムンクって言うんだよ。殺傷能力がほかの剣より鋭いから、神の剣って言われてるね」
「な、なるほど。詳しいね」
「まあね。世界史ならまかせてくれ」
 ユースケは得意そうに笑みを浮かべながら、私にフランク王国のことをいろいろ教えてくれた。
「フランクの王様は言っちゃ何だが、頼りねえんだよな。宰相がいただろ。あいつの言いなりだって」
「ああ、そんなことをいっていたね。ロゼッタって子が」
「宰相は思い通りにしながら王を追放したがっているらしい。俺の突き止めた情報だ。あんた、気をつけたほうがいいぜ。それでなくとも、これから戦争の伝令に行くんだろう?」
 ぎくっ。
 悟られていたか。
「羊皮紙片手に鎧着た姿見れば、誰だって予想つくわな」
「あ、ところで」
 ユースケは私が呼び止めたので振り返った。
「なんだい」
「私を呼んだっていっていたが、どうやって?」
「ああ、かんたんだよ」
 ユースケは地面に魔法円を描き、呪文らしい言葉を長々と唱え始めた。
 すると、ユースケより背の低い少年が現れた。
「こいつ、クロノっていうんだ。時間をつかさどる――悪魔だよ」
「あ、悪魔!?」
 私は腰を抜かしそうになった。ユースケは私を落ち着かせ、
「まあまあ。驚くなって。悪魔といっても、人間に悪さをする類のは、低俗な精霊さ。こいつは違うよ。時間をつかさどる悪魔、・・・・・・偉大なる神クロノスの分身だから」
 なんともまあ、スケールのでかいお話で・・・・・・。
「ここはフランクといっても、神話と歴史が交錯する世界らしいな。オレも最初は驚いた。だって、本物の魔術師は錬金術とかもそうだけど、ほとんどが失敗に終わっているからね。オレがやると成功した。そして、クロノと出会えた」
「なるほど」
「オッサンも魔法くらい使えた方がいいなあ」
 うっせぇ、ガキっ。
 ユースケは私に星型のペンダントを渡すとこういった。
「そいつを持っていな。何かあったら、テトラグラマトンと叫ぶんだ。いいね」
 ユースケはクロノをつれて、去っていってしまった。
 不思議なこともあるものだ。あのユースケという少年が私を呼んだ?
 何のために。
 そしてこのグラムだかバルムンクだかいう剣。
 剣など持ったこともないのに、私の手でしっくりなじんでいた。


 私はユースケにもらった剣を腰に差し、上機嫌で鼻歌を歌いながら、敵の城に向かった。
 途中、私を脅す少年と出くわした。
「おいっ、その剣はオレのだ、返しやがれ!」
 少年は短剣を突き出し、私に襲い掛かってきた。
「わわわっ、ちょっとたんま! ちょっとたんま! 話せばわかる」
「問答無用。そこへなおれ、ぬすっとがぁ」
 剣を握ると、自然と滑らかな動きをとるようになり、私は少年を次第に追い詰めていった。
「なんだと、おめえ、グラムを使えるのか」
「どうやら、らしいね」
 彼はため息をついて、剣を奪うことを諦めたといった。
「俺以外にグラムを使いこなすやつがいたとは。正直びっくりだ。俺はヘルギ」
 ヘルギくんは男の私から見ても美丈夫で、強そうだった。
 その彼が剣を奪われた? いったい誰に。
「俺くらいの歳の、怪しげなヤローだった。もうひとり、チビガキを連れていたな」
 なんか、聞いたことあるんですけど・・・・・・。
 まさかユースケか?
「あんたにも使えるってことは、なにか理由があるんだろうな。しかたねえ、それは預かってくれ」
「いいのかい。悪いから返すよ」
「いいって、いいって。それよっか、あんた。ここには何の用で?」
 私は思い出し、羊皮紙を見せた。
 ヘルギくんは顔色を変え、私に投げつけてよこす。
「あっ、いきなりなにを」
「帰れ。俺はここの王子だぞ。テオドリクスめ、なめたまねしやがって。こちらからもラヴェンナにオドワケル隊を使わすと、いってやれ!」
 オドワケルに・・・・・・ラヴェンナ?
 ああ、わからん・・・・・・。

 
 しかし、いわれたとおりのことを、王に報告せねばならなかった。
 シグルズは戻った私にどうだったか、しきりに尋ねた。
「なに? ヘルギだと?」
 シグルズは唇をかみ締め、歯軋りした。
 あまりこすると、磨り減りますよ・・・・・・。
「かまわん。それよりだな、あいつらを石火矢と投石器でぶっつぶす」
「あっちょんぶりけ! ひとごろしぃぃぃ?!?」
「何を驚く。戦争だから当たり前だろう、タロー、お前も用意せよ」
 ・・・・・・生命保険はここじゃ役にたたねえじゃん! 
 ラリ子・・・・・・寝たきりのボケ蔵じじい、愛する息子。
 父さんは死んでもお前らの夫、息子、父さんだからな・・・・・・。 
 隊長に命じられ、仕方なく剣を抜くと、ヘルギくんが現れた。
 真っ白な馬を乗りこなし、城壁の近くまで来ると馬から下りた。
「ヘルギくん・・・・・・」
 私はこれから殺しあうのかと想ったら、身震いが起きた。
 いやだ。彼とは戦えない――。
 さっき、話をしたばかりじゃないか!
 そんな人と殺しあうなんて。
「隊長。私にはできない」
 シグルズ隊長はいつものように怒鳴り散らすかとかまえるが、しかし、なぜか沈黙を守っている。なんか、ヘンだった。
「隊長?」
 ゆすると、シグルズは口から大量の吐血をし、倒れてしまった。
「たい、隊長!」
 瞳孔が開いている。・・・・・・もうだめだ。死んでいた。
 私から戦意がうせると、グラムの輝きも弱まり、急にずっしりと剣が重くなった。
 もう・・・・・・グラムを持つことすらできなかった。
「命が惜しくば降参しろ。テオドリクス! 宰相のランゴバルド! このヘルギ様をなめるなよ。われらが父グスタフに代わり、このヘルギが成敗いたす!」
 ヘルギくんの部隊は、次々火矢を弓で放ち、城を炎で包み込んでいった。
 隊長は殺されたが、それでもヘルギくんとは戦えなかった。
 なぜなら私は、騎士ではないからだ。
 しがないサラリーマンだった。
「ヘルギくん、話がある」
 城壁の上から顔を出して、私は言った。
「このグラムを君に返すから、国に帰ってくれ」
「それはできないね」
 ヘルギくんは獣のような瞳を私に向ける。