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最後の孤島 第3話 『煙にまかれて』

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【倉野 比奈】(2)



 胡散臭い男だ。初めて見た瞬間、私はそう感じた……。

 ポールテンと名乗るこのオランダ人は、東京の繁華街で見かける怪しい外国人のような、胡散臭さをまとっていた……。着ているアロハシャツが、それに拍車をかけている。
 ダニエルも、その点はわかっているらしく、彼から目を離さないようにしている。つい先ほどとは違う、ダニエルの機敏な動きに、私は心を奪われそうになった。……だが、今はそれどころではない。

「いや〜! 助かったよ!」
ニヤニヤ笑いながら、グラスに入った水を飲むポールテン。セールスマンがよく使うスマイルだ。だが、その胡散臭さから、まともな商売人でないことは、誰にでもわかる。イスに座っている彼は、まじまじと私たちを見ていた。
 幸か不幸か、ポールマンが取り扱う商品がなんであるかは、すぐにわかった。

「俺は、オランダで大麻商人をやっているんだ! 世話になったお礼に、君たちにプレゼントだ!」
ポールマンは、パック入りタバコのような物を、私たちに1つずつ渡した。
 彼は、大麻売人だったのだ……。オランダへの内政干渉をするつもりはないが、こういうノリは迷惑極まりない。
「それは『エース』という名前で、オランダのティーンエイジャーたちに大人気さ!」
ティーンエイジャーという古臭い言葉を、実際に生で聞いたのは初めてだ。
「いりません」
「返すよ」
私とダニエルは、それを彼に返す。私たちに迷いはなかった。

 大麻などの薬物を使わなくたって、この島では有意義に生きていける。たぶん、この島みんながそうだろう。あの旧日本兵への食材に使えるなら、話は別だが……。

「なんで!?」
ポールテンから、営業スマイルは完全に消え失せていた。今の表情は、私たちをバカにしているかのような感じだ。私たちが、自分から大麻を堂々と返したことが、とても信じられないらしい。
 しかし、彼はすぐに、元のスマイルに戻った。
「この辺に、町はあるかな? 村でもいいけど」
「人がたくさんあるまるバザールなら、すぐそこだけど?」
「そうか。ありがとう」
すると、イスから立ち上がった。
 ポールテンは、これからこの島で、大麻を売るつもりらしかった……。この島で大麻が違法かどうかは知らないが、許せない気持ちになった。大麻で島が汚染されるのを、このまま見逃していいものだろうか。
「おいおい? この島でそんなものが売れるとでも思っているのか?」
ダニエルが冷やかす。