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それが家門なら

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19 赤いマフラー



(1)

株主工作
上首尾で
買収は
日々着々と
進んでるのに
嬉しくもなく

父子の夢だ
獣の道だと
どうこじつけても
気が晴れず

酩酊しても
消えない面影
消そうとするほど
なお蘇って
またもがく

夜が昼だか
昼が夜だか

最後にいつが
正気だったか
覚えてないほど
酩酊半ばで
奴から聞いた

「命も捨てて
ハンドル切って
逝ってしまった
人の記憶が
霞んでつらい
忘れちゃいけない
人なのに」と

泣きじゃくったと
そう聞いた

「コートを着るのも
嫌だったのに
あのマフラーが
離せない」と
泣きじゃくったと

聞くはしから
眉間が痛くて
視界は歪んで
上でも向かなきゃ
何かこぼれて

酩酊は
きれいさっぱり
覚め果てた

芝居がはねて
もう何度目か

足が自然に
向かった
いつかの湖で

“ビンタ”を
手に入れ

解毒剤の
押し問答をし

眠気覚ましの
缶コーヒーを
無駄に買わせた
あの湖で

いるはずのない
人を見た

ぽつねんと
ベンチにひとり
遠目に赤い
マフラーだった


(2)

生まれて初めて
他人のことを
羨んだ

生まれて初めて
自分ではない
ほかの男に
なりたかった

青鶴洞の川べりで
10歳の君の
目の前に
立った少年が
僕だったらと
泥酔しながら
夢見てた

自分ではない
ほかの男に
なりたくて
なれなくて
泥酔しながら
地団駄踏んだ

獣のくせに
嫉妬かと
夢見るはしから
自分を笑い
あざ笑っては
夢見たそれも
もうやめる

いるはずのない
人をこの目で
見てるから

あのマフラーが
赤いから

君の初恋で
なかったことは
もう怨まない

その代わり
君がこの世で
最期にまぶたに
映していたい
人間になる

獣をやめて
人間になる

そう決めた

牙むいて
虐げて
物と言わず
金と言わず
手にさえ入れば
有頂天に
なってた獣が

むかれた牙にも
甘んじる
君に出逢って
初めて畏れた

残虐非道な
獣と知っても
それでも
行く手を
遮るまいと
1歩身を引く
君に出逢って

その無私無欲を
心底畏れた

牙をむく
気力が萎えた
獣でいるのが
つくづく嫌で
ヘドが出た

-立ち止まり方を
知らないから
ただ前向いて
進むだけ-

そんな不遜な
屁理屈を
性(さが)だと甘えて
開き直るのは
もうやめる
それが性(さが)なら
変えてやる

君のために
人間になる
生まれ変わりたい
人になりたい
そう思った

僕を心に
入れてほしい

そこにあの人が
いるのは知ってる
当然だ

僕なんかに
義理立てて
死者の記憶を
消さなくていい

霞みそうなら
呼び覚ましてでも
記憶を抱いて
生きていいから

せめて僕も
君の心に
入れてほしい

今すぐここでと
言う気はない
資格もない

でもいつか
赦されるなら

そして
君の心が
この世の中に
あるかぎり

君の心の
中にいたい
君の中で
生きていたい

今日ここで
この湖で

いるはずのない
君を見たから
赤いマフラー
してたから
心の底から
素直に乞える

僕たち
芝居じゃ
なかったろ?

2人とも
ずっと前から

作品名:それが家門なら 作家名:懐拳