それが家門なら
18 芝居ははねた
芝居の幕を
下ろす夜
忘れてくれと
言い添えた
出逢ったことすら
早晩悔いる
汚れた男が
恋人だった
汚れた日々など
忘れろと
君が心に
抱いて行くのは
今までも
これからも
逝ったその人
1人で充分
汚らわしい
獣の影まで
引きずらせたら
気の毒すぎる
記憶に残す
価値もない
獣の呪いは
解いて去るのが
最後の礼儀
だから
忘れてくれと
言い添えた
言い添えたけど
言い添えながら
それでもなお
口づけた
苦しむなと
自分をそんなに
苦しめるなと
最後まで
獣を案じる
ことしか知らない
まっすぐな目に
どうにか耐えて
口づけたのは
衝動じゃない
君はどうあれ
僕にとっては
決して芝居じゃ
なかったと
叶うものなら
一途な雁(キロギ)の
新たなツガイの
片われに
心の底から
なりたかったと
身のほど知らずの
分際で
そう夢見てたと
伝えたかった
信じるなと
脅しつづけて
言葉に懲りた
罪人が
自分の言葉の
非力に懲りた
罪人が
それでも
伝えたかったから
伝える術が
ほかにないから
口づけた
最後まで
身勝手な
男だったと
映ったはず
それでいい
なおさらいい
芝居ははねた
君とはもう
会うこともない
明日からは
買収の
詰めの作業に
忙しくなる