それが家門なら
13 来世の再会
(1)
川で転んだ
10歳の
ずぶ濡れの君の
手を引っぱって
笑いながら
立たせてくれて
「君がダナ?」
今も耳から
離れない
懐かしい声が
そう呼んだと
思い出と呼ぶにも
物足りないほど
何気ない
出逢いだったと
親同士が
とうに決めてた
許婚(いいなずけ)だと
知るより前に
出逢うなり
恋に落ちたと
明かしてくれた
時が経っても
薄れもしない
ご大層な
君の記憶に
苛立って
逝った男が
10年経って
今もなお
君の心に
鮮やかに
居座ってるのに
苛立って
気晴らしすると
車に乗せて
強引に
いつかの湖畔に
連れ出して
帰りの運転
自信がないから
仮眠を取ると
目を閉じた
(2)
目を閉じたきり
1時間
甘やかされた
挙げ句の果てに
「隣にいたら
熟睡できないだろうから
その辺を
散歩してた」と
「家庭教師の
日じゃなかったら
もっと寝かせて
あげたかった」と
その気で聞けば
その気になること
請け合いの
優しい言葉で
起こされて
「私の言葉を
あなたも
信じるべきじゃない
ゲームのルールは
公平のはず」と
二の矢三の矢
間髪いれず
優しい言葉で
ご忠告まで
いただいた
無粋なルールを
逆手にとって
何とも粋な
意趣返し
寝ぼけ眼じゃ
勘違いだって
しかねない
自衛本能が
そうささやいて
缶コーヒーの
気づかいなんか
要らないくらい
目はパッチリと
開いたけど
残しかけた
コーヒーを
無理やり君が
飲み干すように
勧めた理由
何の気なしに
君が発した
名文句
あの一言で
不眠症にも
なりそうなほど
目が冴えた
「居眠り運転
してほしくない
死ぬことは
怖くないけど
あなたと一緒に
死ぬのは怖い
一緒に死んだら
あの世でもまた
あなたに逢うかも
しれないから」
共に死ぬこと
再び逢うこと
それは嫌だと
死んでまで
逢いたくはない
こんな悪縁
この世限りに
してくれと
他人から
やんわりと
釘を刺される
怨めしさ
なかんずく
君の口から
ためらいもなく
釘を刺された
怨めしさ
言いようもなく
自分が惨めで
頭が芯から
冴えきった
残りのコーヒーが
苦かった