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それが家門なら

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14 サソリとカエル



(1)

えげつない
金貸し業の
成金だと

仲間うちでも
鼻つまみなほど
やり口は
血も涙もなく
あくどいと

僕の生業(なりわい)
過去の所業を
期せずして
暴露する場に
君がたまたま
居合わせた

偶然とはいえ
よりにもよって
君に知られて
しまったことが
なぜか無性に
バツが悪くて

かといって
当たり散らして
ますます惨めに
なるくらいなら
1人で酒でも
煽りたかった

だから
降りろと
言ったのに

「飲み過ぎそうなら
止めなきゃ」と

助手席を
動く気配も
ない人に
拒む気力も
湧かなくて

その義侠心を
当てにして
やけ酒の
相手と頼んだ

ただそれだけの
はずだったのに


(2)

あの夜
聞かせた
サソリの話

なぜ唐突に
思い出したか
どうして
あのとき
する気になったか

今でもさっぱり
腑に落ちない

-川を
渡りたかったけど
あいにくサソリは
泳げない

だから
おぶって
渡してくれと
サソリはカエルに
頼んでみるが
カエルは即座に
断った

当然だ
刺されて死ぬのは
真っ平ごめん

そこでサソリは
カエルに言った

「僕だって
刺したとたんに
一緒に溺れてしまうのに
どうして僕が
君を刺す?」

その一言を
カエルは信じて
背負って
泳いで
渡り始める

でも悲しいかな
水の流れが
速すぎた

サソリはだんだん
怖くなり
我を忘れて
気がついたらもう
カエルを刺した
後だった

瀕死のカエルが
サソリに訊いた

「一緒に死ぬのが
判ってるのに
なぜ刺した?」

訊かれたサソリが
悲しそうに
答えて言うには

「どうしようもない
これが僕の
性(さが)なんだ」-

大昔に見た
映画の一幕

他は全部
忘れたのに
この場面だけ
忘れられない

愚かなサソリの
“性(さが)”の一言
どうしても
忘れられない

つづきを君が
引きとった

「サソリはきっと
心の中で
言ってたはず

立ち止まる術を
知らなくて
進むことしか
できない自分が
悲しいって

そんな性(さが)を
持って生まれた
運命が
自分でも
悲しいんだって
心の中で
言ってたはず」

ためらいのない
声だった

少々酒を
煽ってたって
見当はつく

君が暗に
僕を指してる
ことぐらい
すぐに察しは
ついたけど

「知ったような
口利くなって
君には何度も
警告したはず」

そう言いながら
否定にも
脅しにも
なってないのは
判ってた

でも間違っては
いないでしょ?と

おもねることも
怯えることも
まるで知らない
まっすぐな目が
僕に向かって
黙って訊くのに

煙幕なんか
張ったところで
もう効かない


(3)

道理に反する
人でなしには
一歩も引かない
凛々しい君が

手負いの敵には
惜しげもなしに
見せる寛大

いつのまにか
その寛大に
あの夜 僕は
すがってた

この世で一番
自分の弱みを
見せたくなかった
ゲームの敵に

たとえ話で
くるんだ弱音を
思わず知らず
吐いた夜

この世で一番
言い当てられたく
なかった敵に

サソリの性(さが)は
僕の性(さが)だと
言い当てられて
絶句しながら

屈辱は
湧いても来ないで
不思議な安堵に
包まれた夜

外に出て
舞い落ちる雪に
君が小さく
笑んだとき

今夜だけ
一度だけ
僕に許して
くれないかと

限度を超える
寛大を
君の唇に
乞うた夜

僕を見抜いて
僕を笑わず
僕より僕を
知ってる君に
自分を隠す
無益を悟って

畏れと
甘えと
ない交ぜに
君の唇を
乞うた夜

今度こそ
引っ叩かれても
泣きわめかれても
文句も言えない
わがままを

たたずんだまま
目を閉じて
君が叶えて
くれた夜

「悲しそうに
見えたから」

たった一言
そう言った

もしそうなら
ほんとにそうなら

悲しそうに
見えたついでに
もう1度だけ
君の同情を
買ってもいいかと
一晩いっしょに
いてほしいと

品も節度も
かなぐり捨てたが

どこまでも
君は
君だった

男女が一晩
一緒にいたって
何一つ
変わりはしない
お互いもっと
悲しくなると
にべもなかった

つかんだ腕を
そっと離した

唯々諾々と
応じる
上辺の従順より

声高に
破廉恥をなじる
痛罵より

毅然とした
その苦言こそ

君らしい
寛大ゆえの
答えだと

後ろ姿を
目で追いながら
つくづく
兜を脱いだ夜

歩き去る
君の背中を
舞う雪が
守ってた夜

君の
底なしの
寛大が

ありがたくて
怖くて
苦しかった夜

作品名:それが家門なら 作家名:懐拳