それが家門なら
12 師匠の手本
ある日突然
音痴の弟子が
そこそこ歌える
師匠に向かって
手本を見せろと
弟子のくせして
たてついた
見せてくれなきゃ
練習しない
尊敬できる
師匠かどうか
手本を見てから
考えると
スト決め込んで
ソファから
立つ気配もない
弟子に根負け
師匠は
持ち歌披露した
金も取らずに
聞かせるなんて
もったいないほど
歌手顔負けの
振りつきで
感情移入も
最大限に
弟子に向かって
歌って見せた
帰りの車で
何度
口元抑えたか
途中で
数え損なったほど
君は笑った
声を殺して
笑い続けた
家に着いても
車停めても
むこうを向いて
笑ってた
ご所望には
そえたのかな?
時間がたつのは
速かった?
君がそれほど
笑ったんなら
今日の芝居の
出来は上々
カラオケだろうと
登山だろうと
何でもよかった
時間が速く
過ぎる日もある
そのことを君に
教えたかった
僕に無理やり
連れ出されて
事の初めは
不承々々でも
腹をくくって
夢中になれば
時間なんて
あっけないほど
速く過ぎると
君に気づいて
ほしかった
表向きは
もちろん
ゲームの
一環として
君を籠絡するための
ごくごく手頃な
手段として
くれぐれもそう
かこつけて
「僕のことを
憎たらしく
思えなくなったら
どうする?
情が移ったら
どうする?
憎たらしさから
始まる情は
深みにはまって
怖いんだってさ」
“おやすみ”じゃ
芸もないから
何の気なしに
鎌をかけたら
「心配して
くれてるの?」
気になってるのは
そっちじゃない?と
君の顔には
書いてあった
刺さるどころか
かする気配も
ないのかな
君って女は
かすったふりすら
しようとしない
僕なんかが
鎌かけたって