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それが家門なら

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11 山登り



(1)

最後まで
意地張られたら
どうしようかと
内心恐れた

1000m
そこそことはいえ
真冬の山の
ハイキング

頑固に上着を
嫌がるからって
あのカーディガンで
登らせてたら
今ごろ僕は
殺人罪だ

「天国の
その人だって
さすがに今日は
許してくれる

愛しい女が
凍死して
喜ぶ男が
いるもんか」

その一言で
あっさり羽織った
紺のパーカー
よく似合ってた

息抜きがてら
2・3時間
5合目程度で
引き返す

そんなのん気な 
目論見を
ものの見事に
裏切って

息はずませて
登頂するとは
恐れ入る

下界じゃついぞ
見なかった
不思議な景色を
頂上で見た

真冬の山の
つむじ風に
抗って笑む
別人を見た

時が経つのを
鬱々と待つ
気だるそうな
目じゃなくて

薄日に霞む
下界の街を
黒い瞳で
自分の意志で
見つめてた

何があっても
人ごとみたいな
無気力な
抑揚のない
声じゃなく

風の唸りに
負けないくらい
張りのある
澄んだ明るい
声上げた

「連れて来てくれて
ありがとう
山なんて
昔 死ぬほど
辛かったころ
死んでもいいと
思いながら
登って以来」

となりの僕に
向かってか
下界の街に
向かってか
淡々と
話し始めた

山でも
死ねなかったから
生きると決めたと

でも
息するだけ
年を取るだけ
ただ生きるだけと
心に決めて
神さまに
復讐してやる
つもりだったと

10年経って
思いもかけず
今また登って

頂上まで
辿りつくほど
無我夢中に
なってた自分に
驚いたと

だから
ありがとうと

今までずっと
傲慢すぎたと
気づいたからと

生きてる限り
怠けないで
無我夢中で
生きてみる

そしたら
ひょっとしたら
生き残った意味も
判るかもと

そう言った

もう一度
生きたがってる君の
もう一度
生きたがってる声
そう聞こえた

僕はそう
聞きたかった

「そろそろ
下りなきゃ
また無我夢中で」

傍らの僕を
振り返ったのは

下界じゃついぞ
見たことのない
心ここにある君の
心ここにある笑顔

僕に対する
敵意も
侮蔑も
警戒も

下界に忘れて
来たのかと
錯覚しそうに
無邪気な笑顔

その笑顔を
目の前に見た


(2)

下りかけた
日暮れの山で
足を傷めた
君をおぶった

いつかと同じ
右足で
もちろん君は
自分で歩くと
意地張ったけど

頼りない
真冬の日ざしは
刻一刻と傾いて
しんしんと冷える
山ふところで
言い争ってる
暇はない

「殴られて
気を失って
担がれたいか?
今おとなしく
おぶわれたいか?」

君が黙って
おぶわれたんだ

相当な
剣幕だったに
ちがいない

冬山の
怖さもあった
傷めた足も
気がかりだった

逆ってみろ
殴って担いで
下りてやる
ほんとにそう
思ってた

背中の君は
温かく
落ち葉は足に
柔らかかった

口が勝手に
つぶやいた

「芝居がきっかけ
なんかじゃなくて
こんな出逢いじゃ
なかったら
平凡に
つきあえたかな

身構えたり
探り合ったり
することもなく
もっと気楽に
つきあえたかな」

2人並んで
歩いていたら
たぶん口には
出なかった

「この芝居
いつどうやって
終わると思う?」

顔を見ないで
歩いたせいで
口が勝手に
つぶやいた

「一言も信じまい
そのことだけを
考えてる」

背中に体を
預けて以来
一言も
口を利かない
人の返事が
これだった

耳に吐息を
感じるほど
君の体は
近くにあるのに

聞こえた声は
空耳かと
疑いたいほど
頼りなくて
弱々しくて

何よりセリフが
いつもの君で
哀しかった

芝居の相手が
従順すぎて
聞き分けが
あまりに良すぎて
哀しかった

哀しくて
少し笑えた

その顔を
君に見せずに
すんだのが
おぶった僕の
唯一の救い

信じないのが
ルールだから?
ルールは
守るものだから?

1度くらい
信じてみたって
罰なんか
当たるまいに

僕なんか
日を追うごとに

自分の口から
今出た言葉が
冗談だったか
本音だったか
自分で自分に
首かしげ

そうじゃなくても
からかうつもりの
冗談が
いつもどこかで
本音に化けて
口開くたびに
うろたえてるのに

本音は本音と
口にできたら
どんなにか
気楽だろうと

僕なんか
日を追うごとに
得手勝手なこと
考えてるのに
君って人は

あのままずっと
君をおぶって
いたかった

僕の言葉を
信じてみると
音を上げて
君が言うまで

何時間でも
おぶって歩いて
いたかった

僕の言葉を
信じてみたいと
思ったことは
1度もない?

ほんとにない?

作品名:それが家門なら 作家名:懐拳