言の寺 其の弐
桜和音
桜和音聞こゆ 一人往く路
薄桃色の音符がひらり
触れ合いもせずに
奏ぐ音
和して和音となりにけり
我が心にて鳴りにけり
別れし人の面影
そは いつもの通り路に笑顔の残像
桜重なりて
悲しみ一音
旅立ちを遠方に求むれば
まだ見ぬ君に心躍りて
花びらの音
一音昇る
名残惜し多き離別と
心待つ数多の出会いが
散る桜の一枚一枚に映って
オクターブに収まらぬ音群を
一つの心に収めるのです
それが桜の和音です
山の稜
群れたる街
流る涙
前後のアスファルト
高揚した溜息
各々が線描き
仮初の五線譜
風に乗る花びらの儚さを
瞬間に張り付けて
桜和音
あなたの心にも
満ちている
いつか共に
音を重ねる日まで
その音を絶やさないでください
あなたの心の和音が
いつか私と重なる日まで