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言の寺 其の弐

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沁空



何もない空の下に公園のベンチが置いてあった
僕は一人真ん中やや左に腰を落ち着けると
まるで連れ合いであるかの如くにザックを右に座らせ
仕方がないので空を見上げた









静かだった





まるで死後の世界のようだった
虫が鳴かぬはシーズンなれど
風さえそよがぬは はてなと解せない

肌に感じられる感覚も
目を瞑るに値する思い出も皆目あらでで

自分が……
生きているのか不安になってきた

ただただ目の前には水色の空ばかり
陽に薄らめた淡々しいこれは宇宙なのだろう
星は白潰れして見えねどそこにありし気配を感ず

ああ

このままに




「空になってしまおうか」

まるでそれが叶うとまでには思いやらねども
空になることが死に近しいメタファーであれども

然り

僕はゆっくと立ち
空に頭を突き刺して水色に浸る

ゆっくりとゆっくり

空の青さが沁みてくる

自分が水色に染まってきているの わかる

ああ

でもまだ僕はあの人に想いを告げてないな

空になる前に
このニンゲンにひとつ 人間らしい行いをさせておこう



スニーカーがオートメーションで
僕を運搬していく どなどな

公園を出る僕は
少し水色

雲ひとつないがため
ゆるぎもなく僕は
あの人に会いに行ける

シジミ蝶の一羽が音もなくフェンスをすり抜けた

「叶えたいんじゃない、伝えたいだけなんだ僕は」

ふわり無視して

高鳴りする鼓動
空を揺らす




作品名:言の寺 其の弐 作家名:或虎