エコ1,2,3
ビールのせいかエコは少しテンションのあがった声を出し、歴史的価値のある古い建物に感心の声をあげる。男二人連れだったらこんな感じにはならないなと、改めて歳の近い女性のイトコがいてよかったなと思った。
農家の中に入ると、広めの土間に昔見たことのある農機具や炊事用具が展示してある。そして囲炉裏があった。あっただけではなく、小枝や薪を燃やしている。煙が割と多く、小さい頃に嗅いだような煙の匂いがした。その薄煙りの方から声がする。
「どうぞ入ってきて、火に当たってください」
「暖かいよう」
大きめの何人かのおじさん達が囲炉裏を囲んで座っている。
エコの顔を見ると、乗り気なようだ。さらに声をかける人がいるお酒でも飲んでいたのだろうか。その言葉はエコに言ってるようだ。
「虫がつかなくなるよ」
エコは小さいので、よく歳が分からないのだろう。虫が逃げ出す歳なのにと笑ってしまいそうだった。でもオレもビールが効いている。
「私が虫なんです」と冗談を言った。
エコがけらけら笑っている。
一瞬相手の表情が曖昧な笑みになった。夫婦にみられることは多いが、おじさん達はどんな関係を思い浮かべたのだろう。
囲炉裏の火で暖まりながら、話を聞いた。話してくれたおじさん達はボランティアのグループで、囲炉裏の火というより煙を出して藁と茅屋根の燻蒸をしていると言った。それで「虫がつかなくなるよ」と言ったのだろう。
古い建物の移築はかなりの費用と時間がかかるようだ。一度解体して運び、また組み立てる。新しく作るより金がかかるということだ。
「さて、虫さんは危なくなる前に帰ろうかな」
火にあたって顔を中心に暖かくなってきている。
「そうだね」
エコも話を聞くことに飽きてきた頃だったのだろう。すぐに立ち上がった。ボランティアの方々に礼を言って囲炉裏を後にした。
冬の陽射しは最初から傾いているのに、さらに傾いていて、古い農家を陰影をつけている。かすかに記憶に残っている小さい頃の生家の藁葺き屋根、オレの妹をあやす小さい頃のエコの姿を思い浮かべた。
「あっという間に時間が経つねえ」
少し残念そうに聞こえるエコの声を快く聞きながら、いい一日だったと思った。
「じゃあ、もっと寒くならないうちに帰ろうか」
「うん」
素直にエコが返事をした。
【エコ2終わり】