エコ1,2,3
待ち合わせ駅の改札を出るまえに、動きのおかしいおばちゃんの後ろ姿が目に入った。急いで隠れようとしている行動そのものである。あの小ささと子供用のような小さいリュック姿はエコに違いない。
さて、どうしようか。知らんぷりして驚いたふりをするか、もう見付けてしまったとまっすぐエコの所にむかうか。考えながら改札を出る。
さあ、さっきエコが隠れようとしていた所へ、と移動しようと見たがエコはいない。あれっと辺りを見回すが見つからない。改札前の人混みから移動しようと歩き出す。背中に指のようなものが当たる感じと「寒いねえ」と、聞き覚えのある声がする。
振り返ると、笑いながらも子犬が褒められるのを待っているような表情だった。頭をなでてやろうとしたら、半分なでたあたりで一歩逃げた。
「改札出る前に挙動不審のおばちゃん見たんだが、目を離した隙に見えなくなってしまったよ」
「あら 誰でしょうね。で、バスで行くんでしょ」
エコはとぼけて、歩き出す。
バスが5分ほどでで着いたので、「歩いて来てもよかったね」と話しながら公園に入った。
寒々とした冬の木立を見ながら歩く。
「桜の季節に来たよね。何年前だったかねえ」
「3年? 4年前くらいかな」
「5年かもしれないよ、もう数年の誤差が出る歳になったなぁ」
「単に記憶力が悪いのかも」
「あー言ったなぁ」
エコが軽くオレを叩く。
葉も花もついていない桜の枝に近づいてよく見ると、かすかに花芽が膨らんでいるのがわかった。
「今年の桜はどこに行こうかなぁ」
そういえば去年はどこでお花見をしたのだろうと思いを巡らす。ここ数年行った場所が混じり合い、数年の誤差はもうどうでもいいという気になる。
コブシの花芽はもうかなり大きくなっている。ミツマタはもう蕾みだし、ロウバイが少し咲いている。桜だけでなく主に季節季節の花の見所にお花見と称して、ビール持参で行くことが多かった。思い返すと色々な花とその匂いと共にエコの声と姿ががよみがえってくる。エコはすぐそばにいるのに、まるで別れた女を思い出すように。
「何か言った?」
エコが側で見上げている。知らずに何か言ってしまったのだろうか。
「ちょっと思い出していたんだ」
「ああ、亡くなった奥さんのことでしょ」
「ん? 違うよ」
そのあとの、エコと歩いた昔のことをねという言葉は飲み込んで、
「さあ、あそこだよたてもの園」
と、オレは早足になって進んだ。