影ふむ鬼子は隣のだれか2 神末一族番外編
「紫暮」
立ち止まった紫暮の心を見透かすように、気遣うような声が降る。
「おまえのそばにもいてやりたいんだが・・・」
困ったような声だ。珍しい。思わず顔をあげて瑞の方を見た。
「俺はやっぱり、穂積のそばにいたいからなあ」
暗がりに見えないが、たぶん苦笑いを浮かべているであろう瑞の言葉。初めて彼の本心に触れた気がして、紫暮は静かに息を吸う。この式神にとって、穂積は主である前に唯一無二の友人なのだ。そして同時に瑞が穂積に寄せるのは、幼子が親を慕うのに似た絶対的な信頼なのだった。
「・・・べつにそばにいてくれなんて・・・言ってないし」
むくれてそんな強がりを言う紫暮の本心を察してか、瑞はそれ以上突っ込むことなく、紫暮の髪を乱暴にかきまぜるのだった。
「映画、覚えてるか?」
「・・・?」
「『十二歳のあのころのような友だちは、もう二度とできない。もう二度と』だよ。十四歳のおまえにしかできないことをたくさんしろよ。ジジイになってから後悔するのはきついらしいし」
後悔か・・・。いつか清香の跡を継いだとき、自分の人生をつまらないものだったと、そうは言いたくない。生まれ持った役目に負けるのは絶対に嫌だ。あの映画の眩しい夏の風景を思い、紫暮は強く思う。
作品名:影ふむ鬼子は隣のだれか2 神末一族番外編 作家名:ひなた眞白