高柳敬紀の奇妙な日常
そんな出会いから、二週間。毎日のように顔つき会わせて、つきまとわれて、ほとほと困り果てていたことは間違いない。その縁が切れるというのなら万々歳だ。それなのに……この釈然としない想いは何だろう。
「それは『恋』だね☆」
突然上から声がした。見上げるとそいつはクラスメイトのクリストファー・ロズウェル。小さい頃から日本にいたらしく日本語の達者な外国人で……、俺はどっか一本ネジが外れてるんじゃないかと思っている。
「はあ?」
「本でよく読んだよ。うっとおしいと思っていた相手が離れていくと、実は恋していたことに気付くんだ……なんて、すばらしい!」
「……あっそ」
「これこそ日本の『わびさび』の世界だと思わないかい?」
「全然違うだろ」
相手をするのもバカらしい。マツリといいクリスといい、どうして俺の周りというのはこういう変な奴ばかりなんだろう。
「ボク、いいことわざ知ってるよ♪」
クリスは続けた。
「『類は友を呼ぶ』って言うんだ☆」
問答無用で殴っておいた。
「はーい。みんな席について〜」
チャイムと共に担任の風間先生が入ってきた。
本当は女子校の教師を目指していたらしいが、就職先が見つからなくて仕方なしに共学の教師をやっているというアホな先生だ。担任持たせていいのかといつも疑問に思っている。授業自体は面白いのだが、いかんせん数学なんてのは数字を見ただけで頭が拒否するモノだ。
「今日は転入生を紹介しま〜す。はい、入って」
開いたままのドアから入ってきたのは、今朝校門で出会った皐月だった。教室中がおおっとどよめき、次にシーンと静かになった。
「皐月真広と申します。よろしくお願いいたします」
皐月は深々と頭を下げ、そして教室中を見回した。その目が俺を見つけて、軽く会釈をした。どおっと教室が湧く。
「そーだ、高柳クンは朝、会ってたんだよねぇ。じゃ、隣に座らせてもらっちゃえ。隣の本条クンは空いてる席に行ってね☆」
ああ、もうこのアホ教師がぁっ。マツリがいたらえらい目に……ってマツリ?
「マツリちゃんなら逃げてるよ〜」
ぼそりと後ろからクリスの声。っつーか、お前俺の心が読めるのか。
隣の席が空いて、皐月が腰掛けた。
「今朝は大変失礼いたしました。これからよろしくお願いします」
何故か心臓が爆発しそうだった。
作品名:高柳敬紀の奇妙な日常 作家名:aqua*