高柳敬紀の奇妙な日常
校門での出来事は、すでに学校中に広まっていた。教室に着くとクラスメイトがわらわら集まってきて、口々に尋ねてくる。俺はうっとおしいので黙ったまま、話はもっぱらマツリに任せていた。マツリは自分の恐怖をそれこそおもしろおかしく脚色して、身振り手振り付きで話している。時々相づちを求められてそれに応えていたが、次第にそれすらもうざくて、自分の席について窓の外に目をやっていた。
校門で会った彼女は皐月真広と名乗った。『異生』――どうやらマツリのことらしい――を斬る為にこの街に来たという。
「なんだかなぁ……」
気持ちの中に何か釈然としない、もやもやしたモノが浮かんでいた。
皐月がマツリを斬るということは、マツリと別れられるということだ。それはすなわち平穏な日々がやってくるということで、嬉しいことのはずだった。
マツリが俺の前に現れたのは、二週間前の朝だった。その日は確か寝坊して、食パンをくわえながら走っていた。学校までは歩いて二十分足らずだが、校門が閉まるまで五分もなかったのだ。タイムを取ったら世界も目指せるんじゃないかというくらいのスピードで走り、もう少しというところでふと横を見たら……同じスピードで走る女の子がいたのだ。
「なっ、なにぃ!?」
とりあえず目の前の遅刻対策が先だ。滑り込みセーフで校門をくぐり、横を見るとやはりその少女はにっこりと笑って、そこにいた。
「えーっと……君は?」
校門を閉める係の先生も俺と一緒に同じ方向を見ていた。半透明で向こうが透けて見える。にぱっと笑ってはいるが、それは紛れもなく幽霊と呼ばれるモノに違いなかった。
「あたしの名前はマツリっていうの。よろしくねv」
フワリと浮いてくるりと縦回転すると、先生が失神した。俺はぽかーんと口を開けたせいでトーストが地面に落ちていたが、それに気付いたのは大分経ってからだった――。
作品名:高柳敬紀の奇妙な日常 作家名:aqua*