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【創作】「背中合わせで抱きしめて」

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四日目。
アレンは知恵を振り絞って駒を動かすけれど、ウィズの優勢は揺るがない。
落ち着いて、冷静に考えれば勝機はあるはずだと、アレンは自分に言い聞かせた。いつも、ウィズが一人で駒を動かしているのを見ていたのだから、手の内は分かっているはずなのに。
その時、ウィズがふいと顔を上げた。初日から初めて、アレンはウィズとまともに顔を見合わせる。だが、それも一瞬のことで、ウィズは直ぐに視線を落としてしまった。
戸惑うアレンの視界に、ウィズが駒を動かすのが見える。アレンが盤面を見ると、あり得ない位置に駒が動かされていた。

・・・・・・え?

アレンは驚いて顔を上げるが、ウィズは眉一つ動かさず、駒を見つめている。



勝負は、アレンの勝ちとなった。
良い風が吹いてきたとはしゃぐラスリナの言葉も、アレンの耳には届かない。

もしかして、ウィズはわざと・・・・・・?

今まで、アレンが勝った勝負も、思い返せば不自然だった。ウィズはわざと負けているのだろうか? 勝ち負けを繰り返して、勝負を長引かせている? 何の為に?

ウィズに会わなきゃ。

会って真意を確かめないといけないと、アレンは拳を握りしめる。
ラスリナに「一人で考えたいから」と告げ、部屋に駆け戻った。十数えてから、そろりと扉を開ける。ラスリナの姿がないのを確認し、廊下に出た。

ウィズ、今行くから。

何処にいるか分からないけれど、絶対探し出せるはず。自分は、ウィズの兄だから。



長い廊下を進むと、開けた場所に出る。きっと玄関ホールだと当たりをつけ、アレンはきょろきょろと周囲を見回した。
薄暗がりの中、目を凝らせば、凝った装飾の扉が目に入る。素早く近づき、鍵を外して細めに押し開けた。外の暗がりに、アレンは躊躇いなく滑り出る。
外はすっかり日が暮れ、低い鳥の鳴き声が聞こえた。アレンは覚えたばかりの魔法で、手の中に明かりを灯す。そっと周囲を照らすと、深い下草に、密集した木々。何処かの山奥だろうかと考えながら、アレンは慎重に足を踏み出した。


行けども行けども、木々が途切れることはない。アレンは身を竦め、微かな物音にもびくつきながら、闇雲に前へ前へと歩を進めた。ウィズに会って、確かめなければならない。アレンは、それだけを考えていた。

ウィズ、何処にいるんだ?

心の中で呼び掛けながら、暗闇を彷徨う。頭上をばさばさっと横切る音がして、アレンは顔を振り向けた。その瞬間、足元から地面が消える。

「あっ!?」

気がついたときには、斜面を転がりながら滑り落ちていた。


一瞬のようでもあり、永遠のようでもあったが、ついには枯れ葉の山に突っ込む。もがいて何とか体を起こすと、手の中の明かりが消えていた。目の前に広がる暗闇と、正体の分からぬ鳴き声に、アレンの心は恐怖で塗りつぶされる。

・・・・・・ウィズ! ウィズ!!

ガタガタ震えながらへたり込み、声を上げたらウィズが来るだろうかと考えた。口を開きかけたその時、低い地鳴りのような音が響く。

ズン・・・・・・ズズン・・・・・・

ぎょっとして、アレンは身を固くした。音が徐々に近づいてくるのに気づき、逃げようとして枯れ草に足を取られる。倒れ込んだアレンが必死にもがいていると、不意に明かりが灯された。

「怖がらなくていい。こんなところで何をしている?」

男の低い声が響く。アレンが恐る恐る顔を上げると、父親よりいくらか年かさの男性が、手の中の明かりをアレンに向けていた。

「どうした? 迷い込んだか? 私はフリート。お前は?」
「ふっ・・・・・・う・・・・・・うああああああん!」

安堵から、アレンは堪えきれずに、声を上げて泣き出す。相手の男性は慌てた様子で、「大丈夫、もう大丈夫だ」と繰り返しながら、アレンを抱きしめた。