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【創作】「背中合わせで抱きしめて」

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フリートは幼い少年を膝に抱き、途切れ途切れの説明を聞きながら、自分の顔が強ばるのを感じる。

こんな子供まで巻き込んで・・・・・・!

アレンと名乗った少年は、双子の弟ウィズを探しているのだと言った。ウィズが悪魔側の代理だと聞き、フリートは「丁度良い奴がいる」と、アレンを抱え上げた。

「おいで。悪魔側の事情に詳しい者がいる。会わせてやろう」
「えっ、あ、はい」
「いいと言うまで、目を閉じていなさい」
「はい」

アレンが手で顔を覆うのを見て、フリートは笑みをこぼす。
素直な良い少年だ。それだけに、くだらない争いに巻き込まれたことが、不憫でならない。
アレンを落とさないよう抱き直すと、フリートは暗闇の中へと姿を紛れ込ませた。


この辺りだろうと見当をつけ、フリートが岩場に近づくと、ユークの声がした。

「やあ、フリート。暫く見ないうちに、子をもうけたのかい?」
「お前の戯れ言に付き合う気はない。アレン、目を開けなさい」

アレンが手を下ろすのを見届けてから、地面に下ろしてやる。きょろきょろと周囲を見回し、服の裾にしがみついてくるアレンの肩に、フリートは手を回した。
岩の陰から出てきたユークは、アレンに向かってお辞儀をすると、

「こんばんは、アレン。君と顔を合わすのは初めてだね。弟君とは、何度かお茶に付き合ってもらっているよ」
「ウィズと!? ウィズを知ってるんですか!?」

アレンが勢い込んでユークに近づきそうになるのを、フリートはさりげなく押し止める。ユークは肩を竦めて、「僕は日頃の行いが悪いらしい」と呟いた。

「それで? アレンはどうしたい? ああ、説明はいいよ。大体分かっているから」
「ウィズを助けたいんです。ラスリナは、あの、ラスリナのことは、ご存じですか?」
「うん。あいつは馬鹿だから、信じない方がいい」

ユークの直球に、アレンは面食らった様子で、

「えっ、あの」
「君が勝ったら、ウィズは殺されるよ。僕は今まで、悪魔側の代表が生還した例を見たことがない」
「えっ!? で、でも、ラスリナは」

ユークの視線に、フリートは無言で頷く。素直な良い少年だが、いささか考えが幼いのだ。ラスリナの「助ける」という言葉を、額面通り受け取ったのだろう。
ユークは肩を竦め、噛んで含めるように説明し始める。

「嘘ではないよ。あいつは正直者だが愚かなんだ。本気で弟君を取り戻す気だし、取り戻せると信じている。残念ながら、その試みが成功したことはないけどね。君に弟君の亡骸を返して、申し訳ないとうなだれるだけだ。そう、いつも本気で取り戻そうとして、残念な結果に終わる。その繰り返しさ」
「そんなっ! そんな・・・・・・じゃあ、俺が負ければ」
「君が負けたら、二人とも殺されるだろうね。悪魔が人間を助ける? ないない。どちらに転んでも、弟君は殺される。だったら、君一人だけでも助かるほうがいいんじゃないかな」

ラスリナが無責任な希望を与えることを、フリートは苦々しく思った。それは、時に酷く残酷な振る舞いとなる。アレンの見開かれた目から涙がこぼれ落ちるのを見て、フリートは小さな体をそっと抱き寄せた。

「ユーク、何とかならないのか」

一瞬、ユークは心底面倒臭そうな顔をしたが、静かに泣いているアレンに視線を移して、肩を竦める。

「弟君次第だね。彼が僕を信用してくれないことには、手が出せない。求めよ、さらば与えられん、だ」

ユークの口振りからすると、弟の方は兄と正反対らしい。賢明ではあるが、そうならざるを得なかったのだろうか。

「アレン、ウィズを説得する方法はないか?」

フリートは、アレンの頭を撫でながら聞いてみた。疑り深い弟の性格は、兄である彼が一番分かっているだろう。暫くしてから、ごそごそと自分の首元を探り、ペンダントを引っ張り出す。

「これを、ウィズに。あの、二人の取り決めなんです。このペンダントを持っている相手は、味方だって。これを渡せば、分かってくれるはずです」
「へえ。取り決めねえ」

ユークはペンダントを受け取ると、鎖を指に絡めた。フリートの方に物言いたげな視線を投げる。

「君のように素直なら、簡単なんだけどねえ」

どうやら一筋縄ではいかない相手のようだと、フリートも内心溜息をついた。