【創作】「背中合わせで抱きしめて」
二日目。
アレンは震える手で、駒を動かした。ラスリナの言葉通り、駒が盤面を擦る音さえ聞こえない。
俯いて駒を動かすウィズに、アレンは何とか自分の思いを伝えたかった。自分が勝って、必ず助けると。だが、目の前のウィズは俯いて駒を動かすだけ。アレンと目を合わせようともしない。
喧嘩のこと、怒ってるのかな。
いつもなら、ウィズがふざけた調子で謝って、そのままなし崩しに仲直りするのに。ウィズが謝ってきたら、アレンは進路について一緒に考えるつもりだった。
一人暮らしとか・・・・・・絶対無理なのに。
やりたいことがあるにしても、もっと上手い方法があるだろう。両親や先生を、どう説得するつもりなのか。
・・・・・・余計なこと、考えるな。
今はゲームに集中しないと。普通に戦っても、ウィズには勝てない。だけど、アレンが勝たなくてはいけないのだ。
最後の駒を置く。勝負は、アレンの勝ちとなった。
アレンは驚いてウィズを見るが、ウィズはさっさと背を向けて行ってしまう。追いかけたかったけれど、アレンはまるで縛られたように動けなかった。
「良い勝負だった。このまま、流れに乗っていけばいい」
ラサリナの言葉に、アレンは上の空で頷く。途中まで、ウィズが有利だったのに。わざと負けたのだろうか。だが、何の為に?
あの悪魔が、ウィズに酷いことをしなければいいと、アレンは落ち着かない気持ちだった。
「小僧! 何やって」
激昂するベレトの前に、すっとユークが割って入る。
「全く、君は短絡的で困る。彼を脅しても、こちらが不利になるだけだよ? 振り出しに戻っただけじゃないか」
「ユーク、その腑抜けたガキに良く言っておけ。次も負けたら、ただじゃすまねえとな」
足音高く立ち去るベレトに、ユークは肩を竦めて振り返る。ウィズは冷ややかな目で、ユークを見返していた。
作品名:【創作】「背中合わせで抱きしめて」 作家名:シャオ