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【創作】「背中合わせで抱きしめて」

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気がついたら、アレンは見知らぬ建物の中にいた。事態が飲み込めず、ぼんやりと周囲を見回す。
まるで映画のセットのような、何処かの宮殿を思い出させる大広間。煌びやかな装飾を施された柱と壁。天井に描かれているのは、神と悪魔の戦いの様子らしい。
先程まで、自分はバス停にいたはずだ。ウィズが追いかけてくるかもしれないと、バスを一本見送って、それで・・・・・・
ガシャンガシャンと派手な音が聞こえて、アレンは振り返る。近づいてきたのは、磨き上げられた白銀の甲冑。

「やあ、初めまして。君がアレンだね。私はラスリナ。君の世話係だ。宜しく頼む」

くぐもった声と共に手を差し出され、アレンは恐る恐る握手を交わした。

「は、初めまして・・・・・・」
「こんな格好で失礼。姿を見せてはいけない決まりになっているものでね。急に連れてこられて驚いただろう。何か飲み物でも?」
「い、いえ、あの、ウィズが、あ、弟が、探してるだろうから・・・・・・」
「いや、探してはいないさ。彼も今頃、説明を受けているだろう。君達は双子だね? 実に悲しむべき事態だが、我々は常に勝利する。安心したまえ」

力強く励まされ、アレンは周囲に視線を走らせて、助けを求める。だが、そこには誰の姿もない。ウィズさえも。

「あの、あの・・・・・・弟は、今何処に?」
「ああ、これはうっかりしていた。君は説明がまだだったね。立ち話もなんだから、こちらに来たまえ。長く辛い戦いになるだろうが、気をしっかり持って立ち向かうんだ。神は常に正しく、我々は勝利する。そうだろう?」
「えっ、はあ・・・・・・」

ラスリナに促され、アレンは大広間から客間らしい部屋に通された。ソファに座り、刺繍を施したクッションを背にあてがわれる。

「お茶を淹れてあげよう。ミルクと砂糖は?」
「あ、い、頂きます。ありがとうございます」

ぎこちなく受け取ると、アレンはそろそろと口を付けた。ウィズは何処にいるのだろうと、そればかりを考える。
ラスリナはアレンの前に立ち、大仰な調子で話し始めた。

「この世界が生まれた時、悪魔が恥知らずにも、世界の主導権を巡って神に戦いを挑んだのだ。七日七晩続いた争いは熾烈で、この世界は危うく滅んでしまうところだったんだよ。だが、偉大なる神はそれに気づき、聡明にも悪魔に戦いの中止を持ちかけた。恥知らずで愚かな悪魔も、さすがに聞き入れざるを得なかった。世界が滅びてしまったら、争う意味がないからね」

だが、双方ただで引き下がるはずもない。神と悪魔は、それぞれが選んだ代理人に戦わせることとした。
神が勝てば平和な時代となり、悪魔が勝てば暗黒の時代となる。
千年に一度の勝負が、これまで何度も繰り返されてきたという。

「神の代理人は、数多くの勝利を重ねてきた。神の選択は常に正しく、選ばれた者達も、己の使命を全力で果たしたのだ」

ラスリナは誇らしげに胸を張る。アレンお茶を啜りながら、毎回神が勝っていたら、悪魔側は不満に思わないのだろうかと考えた。
アレンの疑問に気づいたのか、ラスリナは「まあ、時には、不幸にも力及ばないこともあったけれど」と、公正に付け加える。

「けれど、前回の勝負は此方側が勝利している。そして、今回もだ。そうだろう、アレン?」

突然呼び掛けられて、アレンは危うくカップを取り落としそうになった。

「え? あっ、え?」
「今回の勝負は、代理人に君が選ばれた。光栄だろう。君は、世界の命運を賭けて戦い、見事勝利するのだ!」

ラスリナの言葉に、アレンは腰を抜かさんばかりに驚く。突然そんなことを言われても、はいそうですかと引き受ける訳にいかなかった。

「あのっ、まっ、でも、俺はっ」
「何も心配しなくていい。神が君を指名した。神の選択は常に正しい。君は勝利する運命にあるのだ」
「い、いやっ、でもっ、あっ! お、弟に、ウィズに会わせてください。あのっ、二人で、相談してから」
「残念だが、それは出来ない」

ラスリナは、神妙な口調で言う。

「君の弟は、悪魔側の代理に選ばれた。君達が顔を合わせるのは、勝負の場でだけだ」

今度こそ、アレンの手からカップが滑り落ちた。毛足の長い絨毯の上に転がった陶器は、茶色い染みを広げる。

「えっ・・・・・・あの、ウィズ、が・・・・・・?」
「残念だ。この事態に、神も心を痛めている。悪魔が狡猾にも、君を動揺させ、勝負を有利に運ぼうとしているのだろう。だが、君は心を強く持って」
「ウィズは!? ウィズは何処にいるんです!? 助けに行かないと!!」

慌てて立ち上がったアレンだが、ラスリナに腕を掴まれた。

「駄目だ。決着がつくまでは、彼に手出しすることは出来ない」
「離してください! ウィズは俺の弟です!! 俺が助けないと!!」

もがいても、ラスリナが力を緩める気配はない。痛いほど握り締められて、アレンは必死に腕を振り回した。

「落ち着きたまえ。君の気持ちは痛いほど分かる。だが、ルールは守らなければならない。勝負が終わるまで、両陣営の代理に手を出すことは許されない」
「だけど!」
「弟を助けたいのなら、勝つことだ。勝負の方法は、君達の世界にあるゲームで、命のやり取りをする訳ではない。君が勝てば、悪魔から弟を取り戻せる。いいね?」

真剣な口調に、アレンは暴れるのをやめる。分かっているのだ、彼に従うしかないことは。

「でも・・・・・・」
「他に方法はない。彼を悪戯に傷つけたくなかったら、言うことを聞いてくれ。我々は勝利し、君は弟と共に下界に戻る。そうだろう?」

アレンは唇を噛んで俯いた。ラスリナの言う通りなのだろう。下手にルールを破れば、ウィズの身に危険が及ぶかもしれない。今、ウィズは、悪魔の元にいるのだから。

ウィズ・・・・・・! 必ず助けるから・・・・・・!!

アレンはきつく手を握りしめ、身を震わせた。