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【創作】「背中合わせで抱きしめて」

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七日目、最終ゲーム。

ベレトの見つめる前で、双子は静かに椅子を引き、向かい合わせで座る。言葉を交わした様子はない。もっとも、声は全て吸収されてしまうが。
結界で封じられた競技場を、ゆるりと影が横切った。ドラゴンに姿を変えたユークが、上空から勝負の行方を見守っているのだ。

『もしあの子がミスをしたら、こっそり二人を殺してしまえばいい』

前夜、ユークが耳打ちしてきたのは、代表を二人とも殺し、勝負を無効にする計画。神側にバレたら、只では済まない内容だ。

『ここにきて、あの子は怖じ気付いてる。世界の命運が掛かっているからね、無理もない』

ウィズが勝てばそれで良し。だが、負けるようなことがあれば・・・・・・。
ベレトは、背中に隠した吹き矢の筒に、そっと触れる。不自然にならないよう、視線を相手側の水晶に移した。そこには、ユークによって送り込まれたフリートが、まるで結界を守るかのごとく、周囲に目を配っている。

実際は逆だがな。

ベレトは、こっそりほくそ笑んだ。上空にいるユークの合図で、水晶を壊す手筈になっている。結界が消えた時、気に食わない双子の命運は尽きるのだ。
むしろ、ミスしてくれればいいのにと、ベレトは愉快な気分で考える。あのくそ生意気なガキを自分の手でしとめたら、どれだけせいせいするだろう。

さあ、手を滑らせろ小僧。お前の首筋に、毒針をお見舞いしてやるよ。

ラスリナを丸め込むなど、容易い仕事だ。相手が悪魔であろうと、その言葉に疑いを持たないだろう。単純で、御しやすい相手。

次の代表は、もっと素直で、誘惑に弱い奴を選ばなければな。

無表情で駒を動かすウィズに視線を向け、ベレトは忌々しげに舌打ちした。あの冷めた目が気に入らない。悪魔の言葉など、ハナから信用していないという目。だが、それとももうおさらばだ。
ベレトは、再びフリートを見やり、口元を歪める。あいつも、神に相当恨みを持っているだろう。領土を奪われ、歴史に悪評を刻まれたのだから。それもこれも、元を正せばユークが神をけしかけたからなのだが、あいつは気づいていないらしい。バラしてやったらどんな顔をするかなと考え、ベレトは、新しい玩具を見つけた子供のようにニヤニヤした。


時が、焦らすように過ぎていく。ユークの作り出す影が何度目か横切った時、ふとウィズの手が止まった。アレンが、盤面を食い入るように見つめている。置かれた駒から、そろそろと指先が離れた瞬間、影がぐにゃりとよじれた。
フリートが水晶に手をかけるのと、ベレトが吹き矢を取り出すのが、ほぼ同時。
水晶が砕かれ、結界が消える。ラスリナの戸惑った叫びに紛れて、毒矢がウィズの首筋めがけて放たれた。少し遅れて、アレンにも。

死ね、小僧!!

だが、タイミングを計ったかのように、双子はお互い腕を伸ばして、相手の体を引き倒す。的を失った毒矢が、ラスリナの鎧に当たって転がった。

「ベレト!? 貴様!!」

ラスリナの怒りの咆哮を引き裂いて、ユークが空から急降下してくる。フリートは素早く双子を抱え上げると、ユークの背に乗せ、自身も跨がった。

「いいぞ、ユーク!」

フリートの声を合図に、ユークは力強く羽ばたいて、その場を離れる。



空高く舞い上がった竜の背で、アレンとウィズは下の混乱に目を遣った。ラスリナとベレトがもみ合っている姿が、徐々に小さくなっていく。

「勝手に潰し合え、バーカ!」

フリートに支えられ、ウィズが嘲るように叫んだ。
その声でアレンは我に返り、双子の弟に勢いよく抱きつく。

「ちょっ! 落ちる!!」

慌てて体勢を直すウィズにしがみついて、アレンはぽろぽろと涙をこぼした。

「・・・・・・無事で良かった・・・・・・!」
「・・・・・・・・・・・・」

背中に腕を回す感触と、耳元でウィズの声がする。

「・・・・・・アレン、ごめんなさい」

アレンは無言で首を振り、ウィズを抱き締めた。