【創作】「背中合わせで抱きしめて」
ベッドに潜り込んでいたアレンは、扉の開く気配に掛け布団を払いのけた。
「フリートさん、ウィズは!?」
「アレン、まだ起きていたのか」
フリートはベッド脇に腰掛けると、アレンの背中に腕を回してくる。アレンは落ち着かない気持ちで、フリートを見上げ、
「ウィズは」
「心配するな。ユークがついている限り、あの子に手出しはさせない」
ユーク。聞き覚えのある名前だけれど、何処でだったかは思い出せなかった。アレンはフリートにもたれ掛かり、胸に顔を埋める。フリートの手が、ぎこちなく髪を撫でた。
「もう寝なさい。明日からは、別の勝負が始まるのだから」
アレンは頷き、大人しく身を横たえる。明日以降の勝負、失敗は許されない。
「お休みなさい、フリートさん」
「お休み、アレン」
気が高ぶっているせいで眠気はないけれど、アレンは無理矢理目を閉じた。
コンコンとノックの音がして、ウィズは窓辺から振り向く。ユークが扉に寄りかって、こちらを見ていた。
「今日はベッドじゃないんだね」
「アレンは?」
ウィズの問いかけに、ユークは「心配ない」と答える。
「向こうにはフリートもいるし、そもそも、ラスリナはお兄さんを傷つけたりしないよ」
「フリートって、お伽噺に出てきた、悪の領主だろう? 何故、神側についてアレンを守ろうとするんだ?」
ユークは無言で肩を竦め、ベッドに腰掛けた。ウィズも隣に座り、同じ問いを繰り返す。
「さあ、どうだろう。そのことに関して、僕は何も言えない」
「何故?」
「約束だから。僕は約束を破ったりしない。だから、何も言えない」
ランプの炎が揺らめき、ユークの顔に影を作った。アレンはお伽噺の内容と、今の事態を並び替えて咀嚼する。
しばらくの沈黙。
ウィズは得心がいったように頷き、「歴史は勝者によって作られる」と言った。
「何だい、突然?」
「あの話、勝ったのは神に選ばれた英雄だ。だったら、事実が神に都合良く書き換えられてても、不思議はない。ユークが邪悪なドラゴンで、その力を与えられたせいで領地を追われたなら、今回フリートは協力しようなんて言い出さないだろ。何か、神側と裏で取引があったんじゃないか? その条件が、他言無用」
ユークはぽかんとした顔でウィズを見つめ、両手を上げて天井を仰ぐ。
「全く、君にはお手上げだよ。君は悪魔のように頭がいい」
「だから選ばれたんだろ」
ウィズが投げやりに言うと、ユークは酷く悲しげな顔をした。こちらが戸惑うほどの、深い悲しみ。
「・・・・・・だから、助けるんだ」
ぽつりと呟かれた言葉を、ウィズは聞こえない振りで受け流した。
「もう寝るよ。明日から、気が抜けない」
「そうだね。一世一代の大勝負だ」
ウィズは口を開きかけて、結局無言でベッドに潜り込む。
「お休み、ウィズ。良い夢を」
ユークの囁くような声に、ウィズは幼い頃を思い出していた。
作品名:【創作】「背中合わせで抱きしめて」 作家名:シャオ