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【創作】「背中合わせで抱きしめて」

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フリートは、ユークとの待ち合わせ場所へと急ぐ。
ラスリナの単純さには苛々させられるが、今回ばかりは感謝していた。
古い大木の根本に開いた空洞に、フリートは体を押し込む。曲がりくねった穴を抜ければ、地下とは思えないほど開けた場所に出た。
ひやりとした空気に、時折水滴の落ちる音が響く。フリートは、さっと周囲を見回して、小声でユークを呼んだ。

「此処だよ、フリート」

影の中から、ユークが現れる。

「首尾は?」
「上々・・・・・・かな。まあ、弟君も納得してくれたよ」

切り裂かれた襟を指でいじりながら、ユークは苦笑する。

「天真爛漫な兄の影で、彼は何を見てきたのだろうね?」
「・・・・・・悪魔が選ぶだけのことはあるな」

フリートは苦々しい思いを噛み潰し、ラスリナに取り入ってアレンの世話を任されたことを話した。

「そう。これで準備は整った。後は仕上げをご覧あれ」

わざとらしくお辞儀をするユークに、フリートは、「何故、あの子達を助けるんだ」と聞く。

「面白いからか?」
「何だ・・・・・・君まで僕を信用しないのか。僕はこれでも、品行方正に生きてきたつもりなんだけどね」

ぶつぶつ言いながら、ユークは肩を竦める。

「子供が辛い目に遭うのを、見たくないんだよ。可哀想じゃないか」
「・・・・・・・・・・・・」
「だから、何で皆して、僕をそんな目で見るのさ。僕が同情的だとおかしいかい? 君にだって、手を貸しただろう?」

ユークの言葉に、フリートは遠い過去を思い出した。



わるいりょうしゅはじゃあくなどらごんをめざめさせてしまいます

小国の領主であったフリートは、日々勢力を強める隣国に頭を悩ませていた。あの日、隣国の使者が突きつけた和平の条件。子供1000人を奴隷として差し出せというもの。その中に、フリートの幼い息子も含めろという。
領主として、父として、そんな条件を飲めるはずがない。だが、断れば戦となり、多くの民が血を流すだろう。追いつめられたフリートが取った手段は、伝説のドラゴンを目覚めさせること。

『こんなところにお客様とは、珍しい』

暗い洞窟の奥深くに、そのドラゴンは眠っていた。それが正しい手段だったのか、今でもフリートには分からない。けれど、あの時は確かに、他に道はなかったのだ。
そうして目覚めたユークは、フリートに力を分け与えた。あくまで、隣国を脅して追い払う為に。

『その力で、人を傷つけてはいけないよ。戻れなくなるからね』

ユークの忠告を、フリートは聞き入れなかった。強大なドラゴンの力で、隣国の軍隊を襲い、切り裂き、野晒しにした。

あくのドラゴンはおうさまのぐんたいをちりぢりにしてしまいます

邪悪な力を手に入れた領主を、民が受け入れるはずもない。そして、不相応な力を手に入れたユークは、神の怒りを買った。

『神の差し向けた英雄が、邪悪な領主を倒したことにすればいい。人々は、神の功績を讃えるだろう』

何時の間にか神の側についていたユークの取りなしで、フリートの命は救われる。領地は幼い息子が継いだ。彼に出来るのは、遠くから妻子の無事を祈ることだけ。ドラゴンの力を取り込んだフリートは、同じ時間を生きられないから。
代わりに神の加護が領地を守り、争いに巻き込まれることなく平和な時代が過ぎていく。それもいつしか時代の流れに飲み込まれ、今は歴史の片隅に埋もれていた。
あの時、ユークの忠告を聞き入れ、フリートが人のままであったなら、また違った結末になっただろう。だが、それも遠い過去のことだ。



「アレン達を見ていると、息子を思い出すのだ」

フリートの言葉に、ユークは分かっているというように頷く。

「子供が子供でいられないのは気の毒だね。大人がしっかりしていないと、子供は大人に成らざるを得ないんだよ。僕には、それが辛い」

ユークは、ウィズのことを考えているのだろうか。フリートは、まだ見ぬ双子の片割れに思いを馳せた。用心深く、一筋縄ではいかない子供。自分が国を追われたせいで、息子も大人に成らざるを得なかっただろう。
行かないでと、泣きながら追い縋ってきた息子の姿が蘇った。

「子供を守るのは、大人の役目だ」

ぽつりと、フリートは呟く。

「せめて、アレン達は助けてやりたい。それが、私の償いかもしれない」
「双子は、君の息子の代わりかい?」

ユークの問いかけに、フリートは首を振り、

「子供を守るのは、大人の役目だ」

と繰り返した。