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【創作】「背中合わせで抱きしめて」

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ウィズはベッドに寝転がって、ぼんやりと天井を眺める。暫くして、誰かが部屋に入ってくる気配がした。

「ユーク? ノックぐらい」
「君のお兄さんに会ったよ」

その言葉が終わるか終わらないかのうちに、ウィズは跳ねるように起きあがり、懐からナイフを取り出して横一線に振り抜く。

「ちょっ! あぶなっ!!」

のけぞったユークの襟に、ざっくりと切れ目が入った。相手の体勢が崩れているうちにと、ウィズはナイフを素早く突き出す。

「うぉえっ!? 待って待って!! ペンダントを預かってきたんだ!!」

慌てて距離を取ったユークが、アレンのペンダントを取り出した。ウィズは目を細め、

「それを力ずくで奪ったのではないと、証明出来るか?」

もしアレンを傷つけていたら、差し違えてでも殺すつもりだった。勝負がつく前に手を出すとは思えないが、だからと言って無条件に信用するつもりはない。
ユークは肩を竦め、「君は知恵がありすぎる」とぼやく。

「君のお兄さんには手出ししてないよ。そんなことをすれば、僕がただじゃ済まない」
「・・・・・・・・・・・・」
「君が勝負を長引かせているのは、お兄さんに手出しさせない為だろう? それと、僕の品定めだ」
「・・・・・・・・・・・・」
「僕が信用できるかどうか、君は迷っている。違うかい? 僕は確かに悪魔側にいるけどね。だからと言って、完全に味方している訳ではないよ」
「・・・・・・・・・・・・」
「僕は君達を助けたい。君達はまだ子供だし、こんなことに巻き込まれて、気の毒だと思ってる」
「・・・・・・・・・・・・」
「君達の力になりたいんだよ。駄目かい?」
「・・・・・・・・・・・・」

ウィズは無言で、冷ややかな視線を向けた。悪魔の甘言に耳を貸すつもりはない。
ユークは、お手上げだというように両腕を広げて、

「おやおや。建前はお気に召さないようだ。折角考えたのに。良い演説だったと思わないかい?」
「・・・・・・・・・・・・」
「分かった分かった。そう睨まないでくれよ。仕方ない、君にだけ本音を教えてあげる。内緒だよ? フリートに怒られるからね」

フリート。何処かで聞いた名だと考えていたら、ユークが片目をつぶって、

「君に味方したほうが、面白いからさ」

そう言って、にやりと笑った。

「そう。それなら、納得できる」

いかにも悪魔らしい理由だと、ウィズはナイフを下げる。ユークはペンダントの鎖を弄びながら、「内緒だよ?」と念を押してきた。



ガシャガシャと派手な音を立てて、ラスリナが駆け寄ってくる。

「アレン! 全く、何処に行ってたんだ! 勝手に抜け出しては駄目だろう!!」

アレンは身を竦めると、事前の打ち合わせ通り、フリートの背中に隠れた。

「ラスリナ、この子の弟が悪魔に捕らわれているというのは、本当か?」

フリートの言葉に、ラスリナは大仰な仕草で天を仰ぎ、

「本当だ。何という悲劇だろうか。兄弟で争わなければならないなんて」
「だが、慈悲深い神は、二人をお救いくださるだろう? 私の時のように」

アレンは驚いてフリートを見上げるが、彼は真っ直ぐにラスリナを見ている。

「もちろんだよ、フリート。彼は勝利し、弟と再会するだろう。悪魔には、髪の毛一本触れさせたりしないさ」
「そうだな、ラスリナ。神は常に、正しい道へと我々をお導きになる。我々は、神の御意志に従っていれば良い」

フリートは、背中に隠れたアレンをそっと前に押し出すと、

「私がアレンを見つけたのも、神の御意志だろう。神が、私に贖罪の機会を与えてくださったのだ。私に彼の世話を任せて欲しい。必ず、期待に応えよう」
「えっ、あ、そうだな・・・・・・そう、神の御意志ならば。だが、前例が」
「神の示す道が、常に舗装されているとは限らないだろう。お願いだ、ラスリナ。私がこの役目を全うすれば、神は私を人に戻してくれるに違いない・・・・・・」
「フリート・・・・・・」

ラスリナは同情的な様子で、フリートの手を取った。

「異形の暮らしは、さぞ身に堪えたことだろう。君は苦難に耐えた。もう解放されても良い頃だ。神は必ずや、君に救いを与えるだろう」
「感謝する、ラスリナ」

そう言って、フリートは頭を下げる。アレンは戸惑いながら、フリートの袖を掴んでいた。