ひらひらの夜だもん・・・
「姐さん、起きろよ。起きてくんない?」慎一は年上の由里子の体を揺すった。
「な~によ。眠たいのよ。するならしてもいいわよ」
「おい、おい、やるもんか。旦那は帰って来るのか?」
「来ないわよ。安心して・・しゅっちょ~~ちゅ~~~」そう言うと由里子は立ち上がり慎一に抱きついてきた。
「おいおい、姐さん。しないと言っただろ」慎一は引き剥がすように由里子をソファーに戻した。
少し目を覚ました由里子は
「な~~んだ、やっぱり私って魅力ないのね」と言った。
「そんなことないけど、酔っ払ってやんのが嫌なだけさ」慎一は言った。
「あら、私はシラフでやんのが嫌いだわよ」
その答えに慎一は笑った。
「しょうがね~な」そう言うと慎一は由里子の服を脱がし始め、自分の服も脱ぎだした。途中で「電気は消してもいいか」と慎一は聞いた。立ち上がり部屋の電気を暗くするとテレビの薄明かりだけになった。音声はミュートにした。ソファーでは素っ裸の由里子が待ちわびていた。
「おいおい、姐さん。いきなり戦闘開始って感じじゃないの」
「いいじゃない、お互い似た者同士なんだしさ。知ってるよ強盗さん」
「ははっ、まいったなぁ~」慎一は由里子が自分の下着を下ろすのを上から眺めた。
そしてソファーの上でそれ以上の言葉は交わさず、重なりあい、求め合い、時間を共有した。
ハッ!ハッ!ハッ!荒い息遣いが静かな部屋の中に一杯になる。
パトカーが行き交う街は静かで闇の中に沈んでいた。そして、その中空にあたる7階のマンションでは知り合ったばかりの男と女が肌を重ね合い、街のホタルのように消えかけしていた。
「はっ、もうだめだ」
「あっ、私も来て、来てぇ~」
繋がりというのは元来、動物的な行為だ。頭で悩むより体に身を任せた場合がリラックスできる。本能に身をさらけ出す‥‥・時々、人は自分の理性を超えたことをやってしまう。
慎一は由里子の胸の上で心臓を大きく高鳴らせていた。
由里子は慎一の身体の重さを感じて安堵に落ちたのか目をつぶっていた。
衝動的な行為には愛なんて綺麗なものはない。ただの本能と欲望それだけで説明できる。
「へんだな俺達って」慎一が口を開いた。
「気づいてたわ、すぐに」
「同類ってか?」
「そうよ。同じ匂いがするもの。滅多に出会わないけどね」由里子が笑う。
「何が一緒なんだ?」慎一が聞いた。
「普通じゃいられない・・・人生ひらひらしてるもん」
「ひらひらか・・・そうかもな」
慎一はテレビでニュースをやっているのに気がつくと、ボリュームを上げた。
今夜7時頃コンビニ強盗が由里子の街であったことを報道していた。
防犯カメラに映った男を緊急手配で捜査してるという。
犯人は黒いマスクをしていた。それを斜め上から写した防犯カメラの画像を流していた。
「やっぱり、あんたじゃない・・・そう思ったんだ」
「俺じゃね~よ」
「いや、わかってるって」そう言うと由里子は慎一の黒い革のジャケットに裸のまま歩み寄ると、ポケットの中の物をさらけ出した。それから「ほらねっ!」と言うと黒いマスクを探し当てた。
慎一は証拠を見つけられたことより、由里子の裸の立ち姿に素直に綺麗だと思った。
「まいったなぁ~、ばれちゃったか」
「わかってるって。それに心配いらないよ。警察になんか突き出さないから」
「まあ、どっちでもいけど、姐さんの裸、綺麗だな。本当に年上かよっ!」
「あら、ここで褒め言葉?度胸あるのね‥‥・。そんなとこも好きよ」
「いつもやってんの、こういうこと?」
「どういうこと?」
「若い男引っ張り込むこと」
「や~ね、若い男だけじゃないわよ・・・いろいろ」
ハッハッハッ慎一は笑った。
「ねえ~、どうする?ここに泊まってく?」由里子は慎一に向かって裸のまま両手を腰に当て聞いた。慎一からはテレビの明かりで由里子が仁王立ちしたシルエットに見えた。
「旦那は帰ってこないのか?」
「とっくに逃げちゃった」
ハッハッハッ慎一は、また笑った。
窓の下では今度はサイレンを鳴らしたパトカーが大通りを走り抜けていた。闇に向かって。
(完)
作品名:ひらひらの夜だもん・・・ 作家名:海野ごはん