深く眠りし存在の
「驚いたなぁ実際・・・こんにちは。名前を教えてくれるかな」
「明理。あんたすごいやんか、出てくんのどうしよう、思ったんやけどさぁ、別の奴が先に出ようとしたんで、先に出られたら癪やし」
松下の表情が崩れた。助手の立場で解離性同一症の患者を扱った経験はあるが、多重人格の患者を直接担当するのは初めてだった。
「ほおぅう、君がメインなのかな。歳はいくつですか」
「ま、そういうことかな、えっとぉ、にじゅう〜なな」
「ちょっと教えて欲しいんだけど、いいかい。何人の人格が存在しているんだい」
「さっちゃん、忍、房枝、それと最近現れた奴にあたし。あたしの知る限りでは恵津子も含めて6人、かな」
足を掻きながら天井に目をやり指折り数えていたが、突然ストッキングを脱ぎ出した。
「ちょっと失礼するよ。こいつ、いっつもストッキングはくから、痒うてたまらん。これからはパンツにするように、ゆうといて」
「ほう、体質まで変わるんだな」
「そっ、あたしはデリケートなんだ」
「恵津子君は、交代人格たちの存在を知らないようだね」
「この女、鈍いから」
「その方たちと個々にお話がしたいんだけどね、今日は存在を確認するだけ、ということで」
「えーっ、そんなことすんの。けど房枝だけは、起こしたらやばいからねぇ」
「どうして」
「自殺願望。目、覚ましたらすぐに死のう、思うてる。なだめんのん大変なんやから、しかもあたしが、いっつもその役目」
「皆さんと初対面の挨拶はしておきたいね。どんな人たちなのか・・・後のことはそれから、ということで」
松下は、貴重な経験にワクワクしていた。
「分かった。けど、全員恵津子からでないと出てこれない」
松下は同じようにして毎回恵津子を呼び出すと、それぞれの人格と会い記録していった。