深く眠りし存在の
「CT検査及び脳波には異常は認められませんでした。それで、問診票の後で記入していただいたテスト結果なんですがね。これはDES、つまり解離性体験スケールテスト、とゆうんですが・・・点数が非常に高いんです」
「先生、それで、どうゆうことが分かったんでしょうか」
「解離性同一症・・・つまり、よく言われている、多重人格、であることが疑わしいですね」
「多重人格・・・私の場合、二重人格かもしれないとゆうことなんでしょうか」
「二重なのか三重なのか、もっと多くの人格があなたの中に存在しているのかは、時間をかけて診ていかなくては分かりません。初めに伺った話から推定すると、少なくともあなたを含めて、3人の人格が存在することになりますね」
「ああ」、恵津子は頭を抱え込んだ。
まつしたメンタルクリニックに予約を入れ、自身を奮い立たせてようやく受診したのだ。頭痛と記憶喪失。しかも最近では、幻聴を経験するようになっていたのである。
記憶喪失は、バイトをしていた頃には毎日のように経験していたが、辞めた後最近まで、そういうことはなくなっていた。再び症状が現れたのは、千尋を生んでからである。
「先生、頭痛と記憶喪失さえ無くなったらそれでいいんですが、時間がかかるのでしょうか。いえ、娘はまだ5ヶ月なんです。毎回預けて来るのも・・・あの、経済的に」
院長である松下良一は、恵津子の目の中を覗き込んで、そこから心の中を探るかのような視線を送っていた。
「今の段階では、治療にどのくらいの時間を要するかは申し上げることはできませんが、お子さんはお連れになってもかまいませんよ。受付で預かりましょう。お金のことより、正常な暮らしができるようになることが、お子さんのためにも重要なのです」
「・・・分かりました。よろしくお願いします」
頭を下げ、小さな声で答えた。
「あなたの状態を正確に把握するために、今あなたの別人格を呼び出しても、かまわないでしょうか」
恵津子は驚いて、松下医師を見た。
「そんな事が出来るんですか!」
うなずき立ちあがった松下は恵津子の額に軽く手を当てて、「出てきなさい」と呼び掛けた。
恵津子は、頭痛をこらえるかのようにこめかみを指で押さえ、目を閉じた。
そして、ゆっくりと開いた目は、腫れぼったい一重からぱっちりとした二重に変わっていた。