深く眠りし存在の
いつの間に、どうゆうふうにして自分自身に戻ったのか記憶が無く、目覚めると布団に寝かされていた。しばらくの間天井をぼんやりと眺め、先ほど見た、キツネ顔の女のことを考えた。
――キツネ、と、幽体離脱したうち、か。
過去に同じことがあった気がするが、思い出すことができない。
――あの不思議な力は、ほんまもんやろか・・・、
まさか、な。
あの人、足の悪い振りしてただけかもしれん。そうや、皆で芝居し
てたんや。
それとも・・・、
キツネとなったうちが、ほんまにやったことなんか・・・?
人の気配を感じて顔を動かした。
母が食卓に両肘を立てて、お面を顔に当てたり外したりして溜息をついていた。それは、祠の正面に坐していたキツネの像と同じ顔をしたお面である。そのお面を顔に当てて房枝の方を向くと、「コ〜ン」と鳴いてみせた。
「お母ちゃん」
布団から起き上がって食卓についた。お面を顔に当てたままの母をじっと見つめる。
「ハァーアッ、あたしゃ、やっぱり力及ばずやった。ようやっと、それが分かったよ。ばっちゃんの正統な後継者は、やっぱり房枝、あんたやったんやねぇ。あたしにも力が備わってるはずやと、ずっと思ってたんやけど・・・」
「お母ちゃん」
「ごめんね。ばっちゃんが死ぬ前に、『房枝が後継者やからな』って指名してて、その場にいた全員がその行為を見てたんやけどね」
お面を取った母は、そっと目頭を押さえた。
「やのにねぇ、祈祷師としてのばあちゃんを手助けしてきてて、ばあちゃんと血の繋がった娘であるあたしが後継者にふさわしい、って勝手にずーっと信じてて・・・皆から崇められる存在であることに、ずっと高慢になってた」
母はしばらく房枝を見つめた後、頭を下げた。
「ほんとにごめんやで。あんたが後継者に指名されとったこと、ずっと嫉妬してたんやろうねぇ。ずっと、ずっと邪険にしてきたこと、許しておくれぇなぁ」
母が手を握り締めてきた。
「お母ちゃん、そうゆうことより、うちは一体どうなってんのん、どうゆうことやのん」
「そうか、なんも知らんかったんやなぁ」