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深く眠りし存在の

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「琴江、準備でけた。房枝、バイクの後ろに乗っけてくぞ」
 すでに開け放している玄関口から父が叫んでいる。母は食卓の前に座っている房枝を促してから、風呂敷包みを提げてきた。
 まだ何も聞いていない房枝は、これから始まることに不安を感じながらも、今までの疑問が解けるに違いないと、黙って言われるままに従おうと決めていた。

 母の乗るバイクを従えて父の後ろにまたがり、棚田の続く道を上がって行くと、途中の分かれ道で山の奥の方へと向かった。家から2分ほどである。見覚えのあるようなこぢんまりとした祠の前は、木を切り倒して造ったらしく、下草が刈りそろえられた広場となっていた。
 そこには、昨日家に押しかけていた人たちも混じえ、20人ほどの話声でざわついていた。
「おおぅーっ、ついに・・・この日が」
「待ち遠しかったよの」
「やはり琴江では、のう」
とゆうような会話が、房枝たちの姿を認めると聞こえてきた。
 その人たちをかき分けるようにして、堂々と胸を張り先導する母に従う房枝。その後ろを父が風呂敷を提げ、腰を低くしてついて来る。
 房枝は顔を正面に向けたまま、目だけを動かして人々の様子を窺っていた。

 祠の扉の前に続く階段を上がり人々の方に向き直った母は、両手を水平に広げ体を左右にゆっくり振ると、話声は止んだ。房枝は続いて階段を上がろうとしたのだが後ろにいる父に止められ、母の仕草を見上げていた。
 話し声が止むと、セミの鳴く声が大きくなり、時折鳥のさえずりが聞こえてくる。

 母は祠の扉をゆっくりと引き開け、左右に大きく開いた。それから房枝に来るようにと仕草で示し、その時に父が、風呂敷を手に押しつけてきた。
 何が入っているのだろうか、と思いつつその柔らかい感触の風呂敷包みを胸に抱えゆっくりと階段を上がると、入り口から内部を覗きこむようにして目を凝らした。暗くてよく見えない。母の無言の動作で促されるままに、薄暗い中へと踏み込んだ。冷気に立ち竦んだまま暗がりに目が慣れてくると視線の先には、坐した姿の、キツネ、の大きな像が、その鋭い視線を投げ下ろしていた。

「あっ」
 自然と足が前に進み、その視線と交差する場所で立ち止まった。
 瞬間、心の中であの不可解な感情が湧きあがり、いつものように軽くやり過ごすことができないほどに強くなってきた。
 その、心を支配しようとする、自分自身のものではない不可思議な意識に抗おうとするのだが、こめかみがどくどくと脈打ち、破裂しそうな痛みが襲ってきた。

――これは・・・、
  人格が交代する時に耐えられないほどの頭痛が襲って来ていた、と
  聞かされていた・・・その痛みに違いない。

 頭を抱え込み、うずくまって激痛をこらえた。
 《負けちゃダメ!》
 明理の声が聞こえた気がした。
 《こらえて、気持ちを強くして》
 恵津子だろうか。
――クッ、気を失ってはいけない。意識を保つのだ・・・。
作品名:深く眠りし存在の 作家名:健忘真実