深く眠りし存在の
朝食を終えようかとゆう頃に、「おはようございます」との声で玄関が開けられて、昨日途中で出会った女性が、顔を覗かせた。
「おはようございます。まだ食事中でしたか、ごめんなさい」
すぐに外に出ようとするのを引きとめた。
「いえ、もう終わったとこです、おはようございます。あなた、康裕さんのお嫁さん?」
「はい、信子、言います、よろしくお願いします」
「こちらこそ、で、私に何か」
「いえ、千尋ちゃんね、うちに来て遊ばないか、と。小さいのがふたりいますんでね」
「でも、甘ちゃんだから、ご迷惑かけますよ。あっそか、私も一緒したらいいんですよね。でもこんな早い時間からお邪魔したら・・・」
まだ8時前である。
「それは・・・房枝さんはなにかと・・・お忙しいと思いますんで、迎えに来たんですけど」
「いえ」
これといった用事もありませんし、と続けようとしたところで母が割り込んできた。
「房枝、子どもは子どもどおしで遊んだらええ。信子さん、ほたら千尋頼みましたで・・・千尋ちゃんは、昼ごはんまで友達と遊んで来てな、そん後で、またばっちゃんと畑行こかいのぅ」
千尋は祖母の差し出した手を取って立ち上がったが、不安げな視線を房枝に投げていた。房枝はこれから起こるであろう出来事を推察できるはずもなかったが、自分自身に何かあるのだと感じ取り、
「千尋ちゃん、安心して遊んでおいで・・・信子さん、何かあったらすぐに知らせてくださいね、じゃあよろしくお願いします」
と、送り出した。
「母さん、これから一体、何があるの」
腰に手を当て、母に向き合ったが、黙ったまま食卓の上を片付け、台所に行ってしまった。まだ残っている物を両手に提げて、共に台所に立つ。
「お母さん!」
「そのことは後さ。父ちゃんが戻って来てからのことで」
「お父ちゃんは、牧場?」
問いかけを無視され、ふたりはむっつりとして後片付けをし、房枝は部屋の掃除をした。