深く眠りし存在の
開け放してある縁側から、人がやって来るのが見えた。ひとりではない。玄関から、「おってかぁ」と声がし、それらの人たちが次々に入って来た。
「菊んとこの嫁がな、おめんとこの方に見かけん人が行きよる、子連れの若い女じゃ、ゆうで、ひょっとこさして房枝が帰って来よったかと思ぅたんじゃが」
と言いつつ顔を覗かせた。
千尋の向きを変えて膝に抱いたまま体をずらせると、にこにこして皆に披露した。
「千尋てゆう、孫じゃ、はぁこんにちは」
千尋の上体ごと押し曲げるようにして祖母が、皆に向かって頭を下げた。
「っんまぁ、琴江さんの孫じゃてか、どれ・・・おめに似ず可愛らしげな、千尋ちゃんは、いくちゅですか」
千尋は立てた3本の指をすぐにひっこめて、母である房枝の背中に駆け寄り顔を隠した。
他の者たちも口々に、「おぼこいのぉ」と笑いながら顔を覗かせては声を上げた。
琴江さん、と言われた母は、集まった人たちの顔を見渡した。
「菊はどした」
「菊さんは、晋三さんに知らせに走っとる」
皆の意味ありげな視線がチラチラと自分に注がれているのを感じ、房枝は居心地の悪さを感じた。その視線には何かを期待しているような、捕らえた獲物は逃さないとゆう邪悪めいた熱さを覚えるのだが、その正体が分からないから不気味に思えるのである。
単車のエンジン音が聞こえてきたかと思うと、父の晋三と菊が人々の間を割って入って来た。
「房枝、よう戻って来た。お前がいないとどうにもならんのだ、琴江ではな」
房枝は言葉を発する余裕もなく不審な表情をして父、母、そして集まって来ている者たちを見渡した。
どうゆうことだろう、と考えてみても思い当たることはない。玄関内から庭には、いつの間にか人々がひしめいて、何かを囁き合っている。
「あんた、そのことは後だ。ほれ見てみぃな、かわいい孫だで。千尋、ちゅうんだ・・・皆も今日は帰ってくれ。わしら、今日は何年振りかの家族水入らずだ、な。明日、祠に集まってくれや」