深く眠りし存在の
瞳を落ち着きなく動かしている、おびえた表情の忍を目の前にして、優しく語りかけた。
「忍君の好きなことって、何かな。好きな科目でも、好きなスポーツでも、好きな食べ物でも」
「そんなものありません。いつも友達からいじめられてましたから、いつでも逃げられるようにしてました。まともに授業なんか聞いてられなかったように、思います。体育の時間も隠れていたような気がします。よく憶えてないんです。ただ、体育用具室の中に連れ込まれて、石灰を口に押し込まれて。狭いところに押し込まれたことも。理由なんて、知りません。いつも標的にされていたような気がします。中学の時が、最もひどかった」
「誰かに助けを求めたことは?」
「・・・なかったように思います。打ち明けることができる人なんて、いませんでしたから」
「君は、房枝君のことを知っているのかい」
「知りませんでした。起こされて、明理さんから聞くまでは」
忍は見かけによらず、ハキハキと答えた。
「房枝君は、嘘つき、と言われていたそうだ。ご両親からね」
「うそつき・・・そう言ってた奴がいた。私を蹴った奴。私には、その理由が分からなかった」
「ありがとう。よく打ち明けてくれました。いよいよ房枝君に直接あたる時が来たようだ」
涙目で見上げている忍の目を優しく見つめて、「安心していなさい」と力強く言い、ゆっくりとうなずいた。