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深く眠りし存在の

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「う〜ん、さっちゃん、かな」
 その表情の変化に従って、さっちゃんが現れたものと推察した。交代人格は松本を前にして現れることに、抵抗がなくなってきているのであろう。
「うん。おにんぎょさん、ありがとう。うちでね、あそんでるん」
「今日は持って来ていないようだね」
「ううん、ちひろちゃんの、かばんのなかに、いれておいたよ」
 さっちゃんは、ドアの方を振り向いた。松本はドアから出ていくと、市松人形を手にし戻って来て、「はい」と手渡した。
「ありがとう。きせかえのきものね、おねぇちゃんが、つくってくれたんだよ」
「おねぇちゃん?」
「あかりねぇちゃん」
「そうか、明理君がしてくれたのか」
「それでね、ときどきこうして、あそぶの」
 さっちゃんは、人形を座らせたり立たせたりしている。
「さっちゃんは5歳だと言っていたね。その頃のことをお話しできるかな。何か覚えてる?」
「う〜んとねぇ、くらいおへやの、ゆかのうえでね、おようふく、ぬがされたの。ぱんつ、もだよ。それでね、からだを、ぺろぺろしてくるんだよ」
「知らない人かな」
「ううん、とうちゃん、とか、おじちゃん、とか」
 松本は、言葉を継ぐことが出来なかった。これは性的虐待である。房枝は、心理的トラウマによって、自己防衛のために別人格を作り出してしまったのだ。一般に、解離性同一症の原因として最も多いパターンである。長い沈黙の間、無心に遊ぶ、体は大人でも仕草は幼児となっている姿を眺めていた。
 そのさっちゃんが、人形の着物を脱がせ始めた。ぼんやりと眺めて、好きなようにさせていたのだが、裸にした人形を舐め始めたので、あわててやめさせた。

「してはいけないことだよ」
「どうして? おとぅちゃんは、してたよ」
「どのような感じがした?」
「こそばかった。あのね、ほんとゆうとね、いたいときもあった。とっても、やだった。さっちゃんね、がまんしてたんだよ。そんで、だれにもゆうな、て、いわれたの。いまゆうたの、だれにも、ないしょにしててね」
「がまんして、嫌な思いをしたんだね」
「わかんない」
 さっちゃんからは、それ以上のことは分からなかった。房枝から聞きだす必要がある。再び着物を纏った人形で遊ぶ無心な姿を、黙って見つめていた。

 恵津子に戻した時に、明理が現れた。目が濡れている。
「房枝、辛い経験、してたのか」
「房枝君の辛い経験が、君と恵津子君、そしておそらく忍君を生まれさせたんだろう」
「恵津子から勇が生まれた。勇が言ってたよ、俺の出番はねぇのかよ、って」
「勇はごく最近生まれ、その理由も分かっているからね。勇君の役割は、彼女たちに勇気を持ってもらえるように励ましてほしい、とゆうこと。特に、房枝君に対してだね」
作品名:深く眠りし存在の 作家名:健忘真実