影ふむ鬼子は隣のだれか1 神末一族番外編
「紫暮(しぐれ)くん、これ読んで下さい!」
放課後、部活に行こうとしていたところを呼び出され、何事かと思えば手紙を渡された。受け取ってくれないと手はひっこめない、そんな気迫に負けてかわいい封筒を受け取る。
「・・・なにこれ」
「て、手紙とわたしのアドレス。あの、ずっと、いいなって思ってて。よかったら、付き合って欲しいの・・・」
同級生の少女に告白されるのは、中学に入って四度目だろうか。自分なんかの何がいいのか、紫暮は自分ではわからない。自分が女なら、愛想もないこんな男は願い下げなのだが。彼女は吹奏楽部の矢野七星(ななせ)だ。三年生になってから一緒のクラスになって・・・この夏は宿泊研修で同じグループだったっけ。冷めた頭でそんなことを考える、訴えるような目で見つめてくる矢野七星の瞳から目を逸らした。
「ごめん」
「・・・なんで?他に好きなひといるの?」
付き合えないって言ってんだから、潔く引き下がれよ。内心で毒づくが、女子にそんなことを言えばどうなるか。適当に言い訳を考えて告げる。
「いないけど・・・面倒で」
「面倒って・・・」
「俺、電話もメールも嫌いだし。だからごめん」
これ以上は無理。紫暮は逃げるようにしてその場を去る。矢野七星は呆然と立ち尽くしたままだった。
「受け取るくらいせえよ」
階段の脇で、教師に出くわした。渋い顔をした老教師は、かわいそうにと眉を下げる。
「何のぞいてるんですか・・・」
「たまたま聞こえただけだ。おまえなあ須丸(すまる)、女の子と付き合うのもいいもんだぞ。恋愛でしか気づけんことや、学べんこともある」
何がいいもんか。好き勝手言ってくれるよ。
「男として名誉じゃろうが。何が不満なんじゃ。矢野かわいいのに」
「だって女って・・・」
「ん?」
「・・・・・・」
脳裏に浮かぶ、祖母の顔。紫暮はため息をついて手を振る。
「何でもないです、俺部活行くんで」
須丸紫暮、14歳。思春期真っ只中だというのに、恋愛にはいまいち興味が持てない。
その理由は出生と、彼を取り巻く女性にある。
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作品名:影ふむ鬼子は隣のだれか1 神末一族番外編 作家名:ひなた眞白